第52話  聖騎士さんと聖女様の密会


「見せてあげよう、可憐なる我が剣技をね」


 青年?が剣を抜いた瞬間、視界を花弁が吹き抜けるような錯覚がした。そして、


「──君だね」


 その姿は、人ごみを掻き分け、気づいたときには、一閃を振ら抜いていた。


「なっ!」


 魔族は振り返る余地すらも与られず、その首は胴体から完全に切り離され、ごろんと聖堂の地面に転がった。


「マリア様、もう安心してくれていい。この私、ライラ・マクガフィンが討ち取った」


 血を払うように、美しいレイピアを振り、鞘へと戻す。

 まさしく電光石火だ。


「ありがとう、ライラ」


「おお、なんで剣技だっ!」

「頼もしいっ!」


 周囲が割れんばかりの盛り上がりを見せる一方で、ルークはじっと冷静に巻き起こった事象を分析していた。


 抜刀から、首を断つに至るまでの過程。この場のほぼ全員が理解出来ていなかっただろう。


 しかし、ルークは違った。

 この場で恐らくたった一人、見逃さなかったのである。


「ライラ・マクガフィン。性別は女。

 そして……Cカップはあるな」


 それは、鎧の隙間で微かに揺れた服越しの乳房の大きさだった。


 巨乳と言うには物足りない。だが、その形状と揺れから導き出される柔らかさを、鑑みるに、美乳。それは間違いない。


「あいつ、結構強えな。くぅぅ! 戦いてぇ!」


「……」


 それに比べて、隣で血に飢えた野獣のような顔を作る女戦士アンナ。

 下にはショートパンツ、上には布一枚を晒しのように巻いているだけ。胸のサイズは、AAカップと見える。


「ふっ」


「あ? てめぇ、笑ったのか? 俺を」


「別に? 自意識過剰じゃないか?」


 とりあえず、今ここで争っても仕方がない。それよりも魔族の侵攻を食い止めるのが先だ。


 ルークは以降、口を閉ざし、マリアの言葉へと耳を傾けた。


***


 決起会が終わり、奥の部屋へと戻ったマリアへと声をかけるべく、その背中を追いかけたルーク。


 しかし、マリアが部屋に入るなり、向かい側から足音が聞こえたため、咄嗟に柱の影に隠れた。


「マリア、大丈夫かい? 先程は怖かっただろう?」


 何処か優雅で、気取ったようなその声の持ち主はライラだ。


「おね……いえ、ライラ様が居ましたので、全く恐るるに足りませんでしたわ」


「そうか。私と言う存在が君に安心感を与えられるのならば、これほどに嬉しいことはないよ」


 会話の内容と雰囲気から、どうにも二人が随分と仲睦まじいであろうことが分かった。


「……流石に今は、邪魔か」


 なんとも踏み込み難い空気を察して、ルークが踵を返した瞬間だった。


「──部屋に入って来ないのかな? ルーク君」


「っ!?」


 いつから? 隠れるタイミングは完璧だったはずだ。バレるはずがない。


「バレるバレないではないよ。私にはスキル《心気探知》があるのだから」


 がちゃりとドアが開き、部屋から出てきたライラ。


「心気探知は、心の表面を覗ける力。そして、それさえ出来てしまえば、相手の場所もすぐに分かるのさ」


「……読心術ってわけか」


 ルークは柱の影から出て、ライラの目の前に姿を現すと、お手上げだと両手を上げる。


「勘違いしないで欲しい。私が見れるのは、心の表面だけ。完全に心を読むことができる訳ではない」


 その切長の涼しげな目元は、何処か挑発的だ。


「へぇ、思ったより大したことないな」


 ルークもルークとて、引き下がることは出来ず、挑発を返す。


「ライラ様、このお方は」


 マリアは火花を散らす二人の間にあたふたしながら、仲裁に入る。


「知っているよ。ルークというのだろう? 君は。遥々、帝国からこの国を救いに来てくれた英傑の一人」


「そ、そうですっ! ですからっ!」


「しかしね、私は彼を好きにはなれないな」


 ばっさりと切り捨てるように、ライラは言う。


「何せ、君があの戦士の子を見た時の反応は、到底紳士足り得ないものだったからね」


 戦士の子。それは恐らく、アンナのことを言っているのだろう。確かに、頭に血が上った。怒りが込み上げた。

 しかし、だ。


「ふっ、そう言うあんたは人を恨んだことがないのか? そりゃー、いいねぇ。蝶よ花よと楽な生活を送ってきたんだろうな」


「……っ」


 ライラの余裕にヒビが入った。その目の奥には、真っ赤な憤怒が透けて見える。


「二人ともっ! そこまでですっ!」


 マリアは言って、ぷくりと頬をリスのように膨らませた。

 どうやら、マリアも本気で怒っているらしい。


「……すまない、少し言い過ぎてしまったよ」


「ああ、こっちも」


「仲直りの握手をしてください」


「いやいや、俺はもうそんなガキじゃない」


「そうだね、それに関しては私も同意する」


「あ・く・しゅ!!」


「「はい」」


 何故そこにこだわるのかはいまいち分からないが、ルークはとりあえず手を差し出した。


「すまなかったな」


「そうだね、私も言いすぎた」


 結局、そのままマリアはライラに手を引かれ、何処かへと行ってしまった。

 なんとも嫌われているらしい。


『ジンパチ』


 頭の中に声が響く。共鳴の指輪の力だ。


『ミリーダか、そっちはどうだ?」


 相手はミリーダ。今は、法国の付近にて斥候として魔族たちの動きを探っているはず。


『ふふふ』


『ど、どうした? 何かあったのか?』


 転がすようなミリーダの笑い声に少し不安に感じたルークが問う。


『なんでもない、ジンパチに指輪を貰ったのが嬉しかっただけ』


『あ、あー、そういうことね』


 別に、そういう意味ではないのだが……。


『それで、どうだった? ミリーダ』


『あ、うん。それなんだけど、ジンパチの言った通りみたい』


 ぎりりと、ルークは奥歯を噛み締める。

 それは、考えうる状況で最も嫌なパターンだったからだ。


「やっぱり、敵は──魔王直下の残党か」



────


あとがき


お読みいただいてありがとうございます。

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