第51話 勇者御一行 女戦士現る。ついでに、王子様系聖騎士さんも
三日後。
ルークは法国にいた。
観光名所である街の大聖堂を見ることもなく、その城門の上で胡座をかき、空を見上げていたのだ。
「あー、なんで……こんなことになっちゃったんだろうな」
ようやくエルフの森から帰ってきたと思えば、今はこんなところにいる。
最近、便利に使われている感が否めない。
「おい、ルーク。そろそろ時間だぞ」
「ん、ああ。アテナか……うん」
ルークは背後から歩いてきたアテナへと振り返り、その鎧を凝視した。
「な、なんだ? どうかしたのか?」
「うん、その鎧。エロいな」
いつもの鎧は角張ったフルプレートメイル。だが、今回着ているのは違う。
動きやすいようにピッタリと体の線を際立たせる特注の鎧。
「み、見るなっ! 汚らわしいっ!」
「まあ、そう言うなよ。別に処女って訳でもあるまいしな」
「なっ、なっ、なっ!?」
アテナは赤面して、睨んでくる。怒っているのか、照れているのかよく分からない表情だ。
「それで? 何の用だ?」
「ふんっ! もう皆集まり始めているぞ」
そっぽを向きながら、アテナは言う。
ならば、そろそろ行かねばならないようだ。
ルークは立ち上がった。
「よし、行くかぁ」
「ああ」
アテナに先導されて、ルークはその場所へと向かった。
***
そこは、まさかの大聖堂。
厳かな空気感を纏う堂内には、多くの人々が何かを待つように集まっていた。
しかも、ただの民衆ではない。
「ほう、結構レベル高いな。こりゃ」
それぞれが、一流の強者。または、一芸に長けた冒険者が集っていると聞く。
正直このレベルだとは思っていなかった。
ルークはじっくりと周りを見渡した後で、その一番後ろ、丸い柱に背を預けた。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
柔らかくもしっかりとした声が響いた。
マリアのものだ。
「うぉぉ!! 聖女様だぁ!!」
「お美しいっ!!」
どうやら熱烈なファンがいるようで、聖堂のそこかしこから歓声が上がる。
「……聖女か、俺のイメージでは性女だがな」
他国に救援を求めるついでに、ルークの絶技を体験しに来たとは思えない清廉さだ。
「今、法国は危機に陥っています。近隣の村は、魔族に焼かれ、民は苦しんでいます」
マリアは自らも苦しむように、ぐっと手を祈るように結ぶ。
「ですから、皆様には力をお借りしたいのです」
「「うぉぉぉぉ!!」」
またも歓声。どうやら、聖女様の人気はルークが思っていた以上らしい。
「──はっ、笑えるな。魔族と戦ったこともない雑魚どもが、何を盛り上がってやがる」
熱狂的とも言える周りの状況に一石を投じるが如く、隣の女が言った。
まるで、自分は誰よりも魔族の恐ろしさを知っているとでも言いたげで、不遜な態度。
そんなことをわざわざ言うのは、どんな奴なんだ。
疑問に思ったルークが横目で見る。
その時だった。
「……なんで、てめぇがここに」
ぞっと総毛立つ。
予期も、想像すらも出来なかった。
何故なら。
「あ? 誰だ? お前」
その言葉通り、女はルークを知らない。それも当然のことだった。何せ、一度として顔を合わせたことはない。
一方的に、ルークがその存在を看過できなかっただけなのだから。
「そうかよ、だが。俺は知ってる。お前のことはよくな」
「あ?」
「勇者御一行の一人、女戦士のアンナだろ?」
「ほー、辛気臭い顔で知識自慢か? あ?」
短く切り揃えられた灰色の髪、褐色の肌。
女性的なしなやかさを保ちながらも、どこか野生を感じさせる肢体。
そして、戦士のイメージからはかけ離れた幼い顔つき。
「まあ、馬鹿を馬鹿にできるのは、馬鹿以外の特権だからな」
「あっ! てめぇ、俺のことをバカって言ったなっ!? 許せねぇ、表にでやがれっ!!」
「望むところだ、分からせてやる」
食ってかかるアンナ、珍しく冷静さを失っていたルークは既に一触即発の雰囲気をしていた。
「まあ、待つんだ。子犬ちゃんと子猫ちゃん」
「「あ?」」
そんな二人に声を掛けてきたのは、中でも目立つ派手で荘厳な鎧を身につけた青年……?
どうにもその容姿は中性的で、ルークには判断がつかなかった。
「ここは、あくまで友好の場。皆で、魔族を打ち払おうとする者たちの集まる決起集会だ。なのに、喧嘩とは馬鹿らしいだろう?」
「てめぇも俺を馬鹿って言ったっ!!」
「今のは、言葉の綾さ。子猫ちゃん」
アンナのターゲットがルークから青年?へと移ったようだった。
ルークは一旦、口を噤むと青年の姿を今一度見やる。
聞いたことはある。法国の最高戦略について。
それは確か……。
「──くっははっ!!」
唐突に、大聖堂に高らかな笑い声が響き渡った。
「人間共が、どれほど手を結ぼうが我らに勝てるはずがなかろうが」
声が聞こえたのは、群衆の中心からだった。
「魔族が、忍び込んでいたのか。ふふ、そうかそうか」
青年?は剣を抜いた。
「──聖騎士。お手並み拝見だな」
運が良い。そう思いながら、ルークは観察に勤しむことにした。
────
あとがき
お読みいただいてありがとうございます。
これからも頑張って続きを書いていきますので、作品フォローや星レビューを付けて応援していただけると、とても嬉しい限りです。
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