第48話  絡み溶け合う三人とエルフの今後


 部屋には柔らかな振動と男女の混ざり合った匂いが充満していた。


「……くぅぅ。やめ、ろ」


 白い肌を艶やかに染めて、女騎士は呟く。息が切れて、途絶え途絶えとなった言葉は何処か煽情的だった。


「本当に、やめていいのか?」


 ルークは指先を焦らすように止める。すると、


「そ、それは」


「アテナよ、これは仕置きじゃ。儂らに拒否権なぞない……んっ」


 ギンも先程より、何度も体を震わせては恍惚とした表情で体を押し付けてくる。胸板に柔らかい乳房の感覚がダイレクトに伝わってくる。

 アテナほどの大きさではないが、小さくはない。


「観念しろ、アテナよ……ん」


 ギンは意識を朦朧とさせたアテナの首筋をちろりと舐めた。


「ひぅっ!!!??」


「なんとも、滑らかな舌触りじゃな?」


「もうっ! 無理っ、無理だからぁ!!」


 ぴちゃりぴちゃりと、水音が部屋に響く。

 混ざり合い、溶け合うように時間は流れる。


「……お゛」


 アテナは嵐のような快感に、ついに意識を失って、ベッドにだらりと倒れた。


「くくっ……ひっん。さ、流石は主人様じゃ」


「ギン、お前ちょっとおいたがすぎるな」


「なんじゃ? 気に食わぬか? それとも……」


 ギンはルークの頬へとキスをする。同時にルークの腕を自らの下腹部へと誘導する。


「またも、儂に──勝負のなんたるかを教えてくれるのか?」


 煽るようでいながら、期待に揺れたその瞳の奥は、確かに勝利を求めているようには見えなかった。


***


「ほんと……ふざけすぎよ」


 それはルークらの情事が行われている客間の隣。

 そこには、壁際に腰を下ろし、耳を壁につけたシズクの姿があった。


「誰のおかげで……ここまで帰ってこれたと思ってんのよ……あっ、今の……すごぃ」


 シズクは懸命に指先を下着の中を入れながら、自らを慰めていた。


「……んっ!?」


 びくびくと肩が上下する。思い出していたのは、あの日。初めてルークに抱かれた時のこと。


 頭の中がめちゃくちゃになって、どろどろのぐずぐずに溶かされて、心の底から満たされていくような感覚。


 あれを知ってしまえば……。


「……足り、ない」


 自ら得られる快楽になぞ、なんの意味もないように感じる。ただ、ひたすらに虚しい。


「はあ、なんで私には何もないのよ」


 何故、あの二人はあんなにも……。


「おーい、シズクいるかぁ?」


「っ!!??」


 扉の前から声が聞こえた。

 紛れもなく、ルークの声だ。


 いつの間にか隣の部屋から聞こえていた水音と嬌声は止んでいる。


「な、な、な、何よっ!?」


 咄嗟に、シズクは素っ頓狂な声をあげた。


「話を聞きたいんだ、俺が意識を失った後に何があったのか」


「……」


 ごくりとシズクは生唾を飲み込んだ。

 この扉を開けば、二人きりになれば、ルークはまた……。


「──今、開けるから」


 もはや、その決断に理性の入る余地はなかった。


***


「エルンさん。と言ったわね」


「はい」


 レイズとエルンがいたのは、レイズの領地の一つ。広大な森へと向かう馬車の中だった。


「エルフは全面的に私が保護、援助します。だから、代わりに……」


「代わりに、なんですか?」


「力を貸してもらえませんか? これからこの世界で巻き起こることには、貴方達の力が必要だと思っています」


「巻き起こること?」


 エルンは首を傾げた。


「ええ。恐らくそう遠くないうちに、この世界の根幹を揺るがすほどの事件が起こることになる」


「そう、ですか。それで、私達がその役に立てると?」


「間違いなく」


 レイズの目は、どこまでも真剣だった。


「……分かりました。ならば、受け入れましょう。聖獣も滅ぼされ、我々エルフがあの森に籠る必要もありませんしね」


「感謝します。絶対に、悪いようにはしませんので、ご安心ください」


 馬車の揺れは収まり、扉が開く。


「ここは帝国領。私の領地にある森です。ご自由にお使いください。無論、必要なものがあれば、幾らでも運び入れましょう」


 ドアの外は、美しい森だった。エルフの森にも負けず劣らず、静かで緩やかな空気。


「ありがとうございます。ですが、一つだけお願いがあるのです」


「なんでしょうか?」


「エルフの少女、エーリカという子をお願い出来ませんか?」


「……分かりました」


 レイズはすぐに理解した。

 きっと、エルンにはエーリカをどうすることもできないと思ったのだ。


 地獄を見ている少女を、一度でも追い返した責任を感じている。レイズにはそう見えた。


「れ、レイズ様っ!!」


 突如、早馬の足音が響く。馬車の隣に止まり、伝令はすぐに飛び降りると、レイズの元まで駆けてくる。


「どうしたの?」


「それが……こんな封書が」


 それは赤い印の押された封書だった。


「……まさか」


 レイズは受け取ってすぐに開く。そして、


「──すぐに、ルークにこの話を伝えなさい。事態は急を要するわ」

 

 血相を変えたレイズは確かにそう言い放ったのだった。



────


あとがき


お読みいただいてありがとうございます。

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