第43話 神の手VS聖獣VS暗闇の衣
「まずは、だな」
ルークは隙を見て、アテナとギンへと駆け寄ると、その拘束を引き千切る。
「妙案じゃな、儂と主人様が組めば百人力。彼奴等なぞ取るに足らん」
「いや、お前らはエーリカやエルフ達の避難を頼む」
エーリカは見たところ、二人の戦いが始まってからずっと物陰に隠れているようだった。咄嗟の判断だったのだろうが、賢明だ。
「ほ、本気か? キサメという男だけでも手こずるだろうに、あの聖獣の相手までもこなすつもりか?」
アテナは不安そうな顔で、見上げてきた。……なんとも、好感度が上がったものだと、ルークは少しおかしくなった。
「安心しろ、多分同時に相手をするわけじゃない」
あくまで、三つ巴。互いが互いを敵だと認識している以上は、2対1にはなり得ないだろう。
「じゃ、じゃが」
「俺たちの目的は、あの野郎でも聖獣とやらでもない。忘れたか?」
「……果実か」
アテナが勘付いたように言った。
「そうだ。だから、エルフを避難させた後で探してくれ。絶対にこの森にあるはずなんだ」
正直、他人に頼む時点で不甲斐ない話なのは、重々承知だった。
ミリーダを治さないのは、紛れもないルークの実力不足。加えて、その果実の入手さえも自分ではもはや不可能に近い。
「ほんと、自分が嫌になるぜ」
「ルーク」
「ん?」
パチンっと静かに響いた。
それは、アテナの手がルークの頬を打った音だった。
「痛え……」
「下を向くな、弱音を吐くな。それらは全部、終わってからだろう?」
アテナのその目は、先ほどとは打って変わって毅然と芯の強さを感じさせるものだった。
二本の角の間を稲妻が駆け回り、空気の割れる音が響く。聖獣の次の一撃が近いのだろう。
ルークは二人へと背を向けて、スーツのジャケットを脱ぎ捨てる。袖を捲り、息を吐く。
「流石は、女騎士。強いな……ドMだけど」
「なっ!?」
「何? 貴様もドMなのか? 気が合うのう」
「ほら、しょうもない話してないで早く行け」
「むぅ、もう少し語らいたいところじゃが、まあ良いか。行くぞ、アテナ」
「ああ。ルーク。……その、死ぬなよ?」
「俺は後百年は生きる気だよ」
二人は矛を収める。そうして、怪我を負ったエルフ達のもとへと走り出した。
「話はついたか? 色男っ!」
瞬間、視覚から気配。
「ちっ! お前ほんとめんどくさいなっ!」
糸。周囲に夜帷が降りていることも相まって、さらにその軌道を見抜くのは困難だ。
確かに、アテナはまだしも、ギンまで捕えられたことも頷ける。
「──ったく、あんまりこの手は使いたくなかったんだが」
「んだ? どんな手を見せてくれんだよっ! 兄ちゃんっ!」
一度でもその糸に捕らえられれば、抜け出すのは容易ではない。というより……。
「っ! 出してる暇もないかっ! 来るっ!」
再び、聖獣は吠える。
同時に、その角から全方位へと電撃が放たれた。
雷は地面を這うように走り抜ける、ルークとキサメその両方に直撃する。
「くっ! 糸単体ならまだしも、同時にこれが来るならきついなっ!」
「あー、俺思うんだがな。男と男の真剣勝負にちょっかい出すやつが一番クソだ」
キサメは糸によって盾を形成し、電撃を地面へと流す。
「奇遇だな、横入りは俺も嫌いなんだよ」
ルークは黄金に光る手によって、電撃を叩き、受け流す。
「なら、答えは一つか?」
「かもな」
駆け回る雷の中、ルークは走り出した。防御を捨て、聖獣へと一直線に。
キサメもその隣を駆ける。
「──俺がアタッカー、お前がサポートな?」
「ふざけんな、兄ちゃん。俺がアタッカーだろ」
地面からは、幾つもの黒い棘が生えそろう。それらはルークへと向かった電流を左右へと散らす。
キサメはそうしながら、自らも聖獣へと差し迫る。
「お前は首でも洗ってろっ! あれは俺がやるっ!」
「いやいや、あれは俺が呼び出したんだぜ? なら、俺に所有権がある、違うか?」
二人は互いに、聖獣へと迫りながら口論を続けていた。
距離にして、3メートルほど。二人が到達した瞬間。
三度、聖獣は咆哮した。
しかし。
「「うるせぇ!!」」
ルークの拳はその左の角を。
キサメの後はその右の角へと。
「「まずはてめえをぶっ倒してからあいつを倒すっ!!」」
繰り出されたその拳は、糸は。
聖獣の双角を完全に破壊したのだった。
────
あとがき
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