第41話 聖獣の真実と復讐のハーフエルフ
キサメ。本当の名を、五十嵐貴雨。
それは、この世界に生まれる前の記憶。
日本という国で生まれ育ち、事故死の後に転生するに至るまでの記憶だ。
そして、その記憶の中。キサメという男。
元は、悪人ではない、ただの普通の人間だったのだ。
日本では、普通の家庭に生まれ育ち、可もなく不可も無くの人生だった。
しかし、キサメという男を悪党たらしめたのは、次の生。
王国の貧民街に生まれた後の人生だった。
今日を生きるために、明日の罪を背負い、金はなく家族もなく、ただ身一つで生かざるを得なかったその半生によって、性格と信念は捻じ曲がったのだ。
強きを砕き、弱きを喰らう。そうして生きる以外に、選択はなかったから。
***
「聖獣を呼び出し、貴方は何をするつもりなのですか」
木々はざわめきの響き渡るエルフの森は緊張に包まれていた。
その最中で、エルンは改めて来訪者へと問うた。
「簡単なことだ、殺すんだよ」
さも当然のことのように、キサメは言った。
「その態度からして、聖獣の正体を知らない訳でもないのでしょう?」
「ああ、知ってるとも。先代の勇者が殺せなかった怪物。何百年もの間、この世界を掻き回した挙句、この森に封印されているんだろ?」
「なんじゃと? ……アテナ」
「し、知らん。聞いたことがないっ」
聖獣。そもそも、そんな怪物がこの森に封印されているという事実すらも。
「知らないのも無理はねぇよ。姉ちゃん。何せ、その事実を隠しているのは、この国。王国自体がやってることなんだからな」
「そんなわけがっ! 王国がそんな……」
「はー? さては姉ちゃんは王国出身か? 母国を信じたいって気持ちは分からなくもないが、裏の社会じゃ王国のヤバさは有名だぜ?」
アテナの頭の中には、ルークの顔が思い浮かんだ。初めて会った時のその目は、王国に対する激しい憎悪に満ちていた。
「さてさて、長話にも飽きてきたな。おい、ガキ。こっちに来い。聖獣を起こす方法、お前は知ってるんだろ?」
「は、はいっ!」
「本気なのですかっ! あれが目覚めればどうなるかっ! エルフの貴方なら分かるはずでしょうっ!」
「……そんなの、どうでもいい、です。私は──エルフが大っ嫌いだから」
「なんですって!?」
「母は、貴方たちにこの森から追放された。人間の子を孕んでいたから」
「っ! まさか貴方は……」
エルンは顔を青ざめた。
「私は、純血のエルフじゃない。人とのハーフです。そして、私がここに来たのは、故郷が恋しくて帰ってきたんじゃない」
少女の目の中には、確かに憎悪の炎が燃えていた。
「私の名は、アイリーン。貴方たちエルフに復讐をするために、この森に戻ってきた」
「はっ! そういうことだ。諦めな? 俺は気は長くないが、優しいんだ。避難する時間はくれてやる」
「ふっ、儂らを忘れたか? まだ戦いは終わってはおらぬであろう?」
「いや、もうお前らは何も出来ない。既に、影を掴んだからな」
「貴様、何を……っ!?」
途端に、ギンとアテナの背後に伸びていた影は糸の如く実体を帯び、その両手と足に絡みつく。
「やられたのう、長話はこれを儂らに気づかせないためのものか」
「そういうことだ」
「くっ、なんと卑怯な」
「はじめろ、ガキ」
「は、はいっ!」
アイリーンは地面に魔法陣を描き始める。
それは、封印を紐解く魔法。通称 鍵開けの秘術と呼ばれるものだ。
「どうする? 逃げるなら、解いてやるぜ? その拘束」
「いや、このままで構わん。何せ」
ギンはニヤリと笑った。
「──儂らの主人がようやく到着したようだからな」
「っ!? まさかっ!」
キサメは何かを察知したように、空を見上げた。同時に。
「シズク、もういい。下せっ!」
「はあ、ほんと人使いが荒いっ! 落下死しても知らないからねっ!」
一人の男が上空から落ちてくる。
スーツを纏い、キサメをその目に睨み、拳を固く握ったその男は。
「お前かっ! 俺の人形共を壊しやがったのはっ!」
「てめぇこそ! 殺しすぎだっ! クソ野郎っ!」
その腕は黄金に光る。
たるで、神の腕が如く。
「お前は倒すっ! 《落日》っ!」
恒星の如く、輝くその一撃は球体を作り出す。
「はっ! 不意をついたつもりか? この距離なら十分、俺の射程距離だっ!」
ローブから伸びた糸は、統合され、一本の槍へが生み出された。
「スキル行使──《暗闇の衣》。撃ち抜け、黒の槍っ!」
相対した強大な力は、鍔迫り合う。
そして、次第に金色の光が黒の槍を押し始めた。
その結果。
「強えな、お前」
押し負けたキサメは衝撃を衣によって、打ち消し耐える。
「おいおい、今の一撃。聖剣を折った技だぞ」
「ほう? 勇者とやり合ったのか? なら、ほとんど同類じゃねぇか」
ルークは着地を果たす。同時に。
「影を掴む、そうすりゃ勝ちだ」
「はあ? なんだ厨二病か? 患ってんのか? お前」
アテナとギン同様に、ルークの影から糸が伸びる。
「気をつけよっ! 主人様っ!」
「遅いっ!」
瞬く間に、ルークの体を拘束する。
「はっ、相当な強者かと思ったが、まあ、相性が悪かったな」
「スキル行使──《ゴッドハンド》。そうだな、相性が良くないみたいだ」
「……なに?」
ルークは身を包んだ拘束を容易に引きちぎる。
「俺の糸は鋼鉄以上の硬さだぞ、何者だ?」
「俺の手は、全ての硬度と耐性、加護を貫通する。関係ない」
「はぁ? なんだそれ。ふざけてやがるな」
「さて。俺の仲間が世話になったな」
相対した強者二人。
聖獣の復活を賭けたその戦いは静かに幕を開けた。
────
あとがき
お読みいただいてありがとうございます。
これからも頑張って続きを書いていきますので、作品フォローや星レビューを付けて応援していただけると、とても嬉しい限りです。
どうぞ、よろしくお願いします!
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