第31話  デートと刹那の遭遇


「ぐふふ、ぐふ、ぐふふふ」


 街のバザールを歩いていると、隣の側はなんとも形容し難い変な笑いを溢していた。


「どうした? 何か欲しいものでも見つかったのか?」


 どう考えてもそう言った類の笑い方ではなかったが、とりあえずとルークは聞いてみた。


 帝都に勝るとも劣らない王国のバザールは、早朝にも関わらず、人で溢れかえっていた。


 一本道の両脇を囲むように作られた建物の数々は、手前から食料品類、衣類といったような感じで、ジャンルごとに区画分けがなされている。


「いや何、この状況が面白くてのう。よもや、儂が男とでぇとをすることになるとはな」


「元の世界ではなかったのか?」


「元の世界、か。あまり思い出したいものではないな」


「そうなのか」


「まあ、その話はまた後日で良い。それよりも主人様よ、三人は連れてこなくて良かったのか?」


 ギンは少し不思議そうだった。


「あの三人は目立ちすぎるだろ? アテナは元王国の騎士。エーリカはエルフだ。シズクは目立ちはしないが……」


「まあ、確かに何かあった時、少し面倒臭いか」


「ああ」


 そのまま、二人は他愛のない話をしながら歩みを進め、ついにバザールの最後の店へと辿り着いた。


「ほう、ここは……」


 その店は、埃の被った小さな店だ。看板は擦り切れて、なんと書いてあるかは読めない。


「ここは、ダンジョンやら古代の廃城やらを漁って出てきたアイテム、魔道具を売ってる店だ」


 魔道具とは謂わば、魔法を秘めたアイテムだ。魔法を使えぬものでも扱えるという最大の特徴から、総じて、かなりの値打ちが付くことが多い。


「ほう? それは面白い。……じゃが、儲かってはいなさそうじゃの」


 確かに、そう見えるな。とルークも頷いてから、ドアを開いた。

 ベルの音が響き、中に来客を伝える。


「いらっしゃーせー」


「どうも、久しぶり」


「あ、ルークちゃんじゃない」


 出迎えてくれたのは、やる気の無さそうな女店員。名前は知らないから、勝手に『やる気なし子』と呼んでいる。


「久々に、こっちに用事があってな。ついでに寄ってみた」


「おー、いいねー。色々入ってるよー。……そっちの子は? 恋人?」


「いや、こいつは……」


「お初にお目に掛かる。儂はギン。主人様の従順な雌犬じゃ、時に股を開き……」


「ちょいちょいちょい、やめろってそれ」


「うわ、最低だ」


 今日何度目か分からない最低という言葉。

 ルークは頭を抱えたかったが、なんとか堪える。


「何か、良いものは入ってたか?」


「あ、そうだった。これなんてどう?」


 やる気なし子がそう言って、戸棚から取り出したのは、二つの木箱だ。


「これは?」


「この前、何処ぞの貴族が没落して、市場に流れた魔道具。通称──共鳴の指輪」


「ほう?」


「その力は、共鳴。装着者同士の正確な位置、状態を知れる。そして、何よりも……」


 そのまま木箱を開けて、なし子は指輪の片方をルークへと投げ渡した。


『どう? 聞こえる?』


「っ!?」


 頭の中に直接声が響いた。

 

「なるほど。持ち主同士で、意思の疎通も出来る。そういうことか」


「そー。いいでしょ?」


 今度はきちんと音として聞こえた。


「よし、買った。全部でいくつある?」


「全部で四つ。一つ、千五百金貨」


「千五百……ぜ、ぜんぶで、いくらに……五千、四千かっ!?」


 金額の大きさに驚いたのか、ギンは一歩二歩と後ずさる。


「合計六千か。分かった」


 それを尻目に、ルークはストレージへと手を入れると大きく膨れ上がった袋を取り出した。


「ここに、六千……二、三百はある。数えるのめんどくさいから、このまま受け取ってくれ」


「ひぃぃ! それだけあれば、賭場ごと買えてしまうぞっ!」


「まいどー」


 なし子は袋の中を覗いて、数えることなく、受け取るとそのまま木箱とはめていた指輪を差し出した。


「それじゃ、また来る。ほら、行くぞ。ギン」


「お、おうとも」


 一連のやり取りを引き攣った顔で見ていたギンを連れて、ルークは店を出る。


 時間もすでに昼前だ。


「飯にでも行くか」


「おう、そうじゃな。美味い肉と、酒があれば良いのじゃが」


「おいおい、昼間っから飲む気かよ……っと、その前に。ギン、これを付けてろ」


「ひょぇ!? 本気が主人様よっ!?」


 ルークが手渡したのは、共鳴の指輪だった。


「使わないと買った意味がないだろ?」


「じゃ、じゃが……」


 ギンは恐る恐ると言った様子で、手の上においた指輪を眺めていた。


「いらないなら、いらないで……っ!?」


 言葉を紡ぎ終える直前、刹那。


 ルークの視界にそれは映った。


 決して、忘れることの出来ない仇敵。

 その顔が。その姿が。


『ギン。このまま、聞け。今、人混みの中に敵がいた』


「むっ」


 どうやら、確かに聞こえたようだ。


『えーと、こんな感じ……か? 聞こえるか、主人様よ』


『ああ』


『敵とは? どのような奴じゃ?』


 ギンの目色はすぐに戦闘状態へと切り替わる。

 

『──奴は、勇者と呼ばれた悪党だ』



────


あとがき


お読みいただいてありがとうございます。

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