第12話  勇者一行、魔法使い捕獲作戦始まる。

 一夜が明けて、町へと戻ってきたルークら三人は一旦、別行動となった。


 アテナとミリーダは、旅の疲れを癒すため……そして、ダンジョンであったなんやかんやを洗い流すべく、浴場へと。


 その間にルークは、行きつけの酒場へと向かった。

 いつものような騒乱さはない。それもそのはず、男たちの視線はバーカウンターに腰を下ろした一人の美女へと注がれていたからだ。


「美人だなぁ」

「ああ、あれは伝説級の美しさだ。声、掛けてみるか?」

「やめとけ。隣の席に掛かってる外套。ありゃ、帝国軍の大幹部様だ」

「ひぇぇ。てことは、無礼でも働いた日には、打首確定かぁ」


 男たちのひそひそとした声にルークは心の中で頷いていた。

 確かに、あの女を怒らせれば何をされるか、容易に想像がつく。


「お待たせ。待ったかい? 親愛なる君」


 後ろから、ルークは鼻にかけた声を出しながら、場違いな美女、レイズ・バランタインの隣へと腰掛けた。


「遅いわよ。召喚状は昨日には届いていたはずでしょう?」


「あー、実は出かけててな。帰ってきたのは、ついさっきだ」


「はぁ、ほんといい加減ね。貴方。ミリーダは?」


「今は、風呂」


「そ。無事ならそれでいいわ」


 城門の詰め所で教えて貰わなければ、遅刻どころでは済まなかっただろう。


「この店は、奢りだよな?」


「何? 私が貴方を呼び出して、一度でもお金を払わせたことあったかしら」


「確かに。マスター、一番高い酒を頼む」


「……ほんと、そのうち上官侮辱罪で罰を与えようかしら」


 その目は、とても冗談には見えない。


「じょ、冗談だよ。おい! こら! なに一番高い酒を注いでやがるっ! 飲まねぇからな!! 水だ! 水をくれっ!」


「えぇ……」


 マスターは呆れた顔で、やれやれとこちらを見ていた。……申し訳ないが、理解して欲しい。


「仕事の件だけど……」


 レイズが切り出した。


「勇者御一行が魔王討伐の帰り道に、帝都に寄るんだろ?」


「……誰から聞いた?」


「パトロンだ」


「そう、あの魔女ってわけね」


 レイズはぴくりと瞼を震わせて、言い当てるとグラスを傾けた。


「ま、そうだな」


「あまり肩入れしすぎないようにね、あれは魔族。人ではないのだから」


「俺が肩入れするように見えるか? あれに」


「さあ、どうでしょうね。だって、貴方はどこまで行っても鬼畜のふりをしている善人じゃない」


 痛いところをついてくるものだ。ルークは鼻で笑った。


「それで、俺はどうすりゃいい?」


「とりあえず、今日中に帝都へと発ちなさい。ここからならば、馬車で二日で着くはずよ」


「……それ以降は? また指示待ちか?」


 自然と言葉に怒りのようなものが混じった。それもほとんど無意識に。


「冷静になりなさい。復讐を早るのは分かるけど、今焦ってもどうにもならないでしょう」


「……ああ。そうだな。すまん」


「それじゃあ、私は一足先に帝都に戻るわ。貴方もすぐに来なさいね」


「はいよー」


 レイズはそう言って店から出て行った。どうせなら一緒に行けばいいと思ったが、転移魔法を使って戻るつまりなのだろう。


「さてさて、俺も準備するかぁ」


 提供された水を一気な飲み干して、ルークも店を出た。


***


 貸し切った浴場。湯気が立ち上る湯船の中、二人の間には妙に気まずい空気が流れていた。


「「……」」


 ミリーダとアテナは視線すら一度として合わせることなく、お互いにそっぽを向いている。


「なあ、一つ……いいか?」


 アテナが何かを決意したように振り返ると、その豊満な胸の動きによって、水面が柔らかく揺れた。


「なに?」


 ミリーダはアテナの視線に訝しむような視線を返し、湯船の中、体に巻いたタオルをギュッと摘み上げる。それは何かを隠しているようだった。


「お前と、あいつは恋人……なのか?」


「っ!?」


 アテナの言葉に、ミリーダは目を見開いた。


「な、なんだ? 間違っていたのか?」


「いいえ、その通り。恋人。それがなに?」


 全くの嘘だ。ルークがもしものこの場にいたのなら、そう言っただろう。

 だが、ここにはいない。それだけだった。


「やはり、か。ならば、教えてくれ。奴は何故、王国を裏切り、この国にいるんだ?」


「……それは」


 ミリーダは湯船の中で膝を抱える。

 それを言っても良いのか、迷っていたのだ。


「知ってはいるんだな。頼む、別に奴を陥れたいとかそういうのではないんだ。ただ、私にはどうにも、奴がただの下衆とは思えないんだ」


 初めて会った時もそう。色々されはしたが、傷つけられることはなかった。


 森での時もそう、戦わされはしたが、常にこちらを見て助太刀を伺っていた。アテナの攻撃にも反撃はせず、笑みすら浮かべていた。


「直接、ジンパチから聞いたわけじゃないけど……」


 ミリーダは視線を逸らしながら、口を開く。


「勿論、それで構わん。聞かせてくれ」


「勇者一行と王国は、ね」


 すっとミリーダは吐息を漏らしてから、残り半分の言葉を紡いだ。


「──ジンパチの友達二人を、殺したんだよ」

 


────


あとがき


お読みいただいてありがとうございます。

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