第10話  唸るゴッドハンド、漏れる少女の吐息

「ぎゃははははっ!!! ちょっと待て! 待ってくれっ! ギブだ! ギブアップぅー!」


「いやいやぁ、まだだろ?」


 玉座に座り、少女を膝に乗せたルークのゴッドハンドが唸りを上げる。

 バーミリオンの脇下をあまりにも繊細に、大胆に弄り上げる。


「ひぃぃぃ! 悪かった! 悪かったぁぁ! ごめんってぇ!」


「何が、『殺しに来た』だ。お前が近いうちに来いって言ったんだろうが……」


「ごめんよぉ、ちょっとした出来心だったんだよぉ」


「なら、お仕置きだなぁ」


「ひぃぃーー! い、息ができないぃ! あ、ちょっと待て、待って! 今来てる、凄いのが来てるからぁぁ!」


 バタバタと体全身を震わせて、涙目になるバーミリオン。


「まだ、まだぁ」


 指先は加速する。


「ふぐぅ!!! だめぇぇ!!」


 あ、やりすぎた。

 ルークがそう思った時には、既に時遅く……。


「うわぁぁぁん!! ジンパチがしつこいからぁぁ!! びちょびちょじゃないかぁぁ」


 何をとは言えないが……どうやら、漏らしてしまったらしい。


「なんか、すまん」


「もぉ、最悪だぁ。なんで、こんな酷いことするんだよぉ」


 しくしくと鼻を鳴らしながら、バーミリオンは立ち上がると、ぱちんと指を鳴らす。


「あんまり服ないのにぃ……」


 一瞬のうちに、着替えてしまった。魔法……いや、ほんの些細な現象にしか見えないが、今の一瞬にはかなり高等な魔法が複数使用されいた。


「これじゃもうお嫁に行かないよぉ」


「……いや、幾つもりならこんな場所にいないだろ」


 ルークは聞こえないように言った。


「で、なんでわざわざ俺を呼んだ?」


 呼んだと言っても、実際にそう言われたわけではない。


「夢の中に出てこられると、流石に寝た気がしない」


 バーミリオンは夢魔と吸血鬼のハーフだそうだ。そのため、人の夢に出没し、メッセージを与える。そんなことも出来るんだとか。


「むっ、せっかくいい事を教えてあげようと思ったのに」


「あーはいはい。さっきはすみませんでしたー。やりすぎましたよ、はい」


「……ふむ。今はそれで許してあげよう。

 ──君の復讐、始めるなら今しかないよ」


「は? なんだよ急に」


「あれれ? 知らないのかい? 今より五日後。勇者一行が恐らく帝都を訪れる」


「なっ!? なんで急にっ!?」


「倒したのさ、魔王をね」


 魔王を倒した。その言葉は、軽いものではない。正直、信じられるかも怪しいレベルだ。

 しかし、勇者ならばと思えてしまう。


「それで、どうしろと?」


「ん? 簡単な事じゃないか。倒すなり、罠にかけるなり、好きにすればいい。私の知るところではないからね」


「ほう?」


「でも、君とは浅からぬ仲だ。助言をしておくよ」


 バーミリオンはやや首を傾けて、ルークの目を見つめた。


「──勇者とだけは戦うな。恐らく、今の君では勝てやしない」


 残念ながら、それは客観的な事実なのだろう。ルークはそう理解した。

 ルークの奥の手を知ってか知らずかは、分からないが。


「……わざわざ、どうも。俺はそろそろ帰る」


 そろそろここに来て二時間が経つ。二人が目を覚ます頃合いだろう。


「あ、待ってくれ。もう一つ、君を呼んだのには理由があるんだ」


「ん? 何かあったか?」


 バーミリオンはふんっと自慢げに鼻を鳴らす。


「今回の──エロトラップダンジョン。どうだった? 我がながら、力作だったんだが」


「なるほど。そうきましたか」


 ルークは目を細め、まるでデータキャラが眼鏡をきらりと光らせる時のように、指をくいっと眉間に当てた。もちろん、エア眼鏡だ。


「まずは触手。うん、良かった。……が、やはり今回はうちの騎士との相性が良かったからこそ成立した。私はそう考えております」


 アテナは気丈なふりをするドM。あまりにも……あまりにもだった。


「じゃあ、新作。感覚遮断落とし穴は、どうだった?」


「うん。悪くなかった。……いや、違うな」


 言い直したルークは、びしりと親指を立てた。


「控えめに言って、最高……だった」


 当人が知らないうちに、いつの間にか……そう、謂わば無知シチュにも似たあの状況は流石に捗ったと言えよう。


「ふっ。流石は、最強の拷問官。話がわかるね」


「ああ、総じて、非常にレベルの高いエロトラップダンジョンだったぜ」


 ぜひ、リピートしたい。そう、ルークが思うほどには。


***

  

「どこに行ってた? ジンパチ」


 再び、扉を潜ると、最奥の前の大広場では二人が焚き木に当たりながら待っていた。


「ちょっと、この迷宮の主とお話をしてた」


「なっ! 貴様っ! 王国を裏切っただけでは飽き足らず、よもや魔族の手先に成り下がったかっ!」


「はーい、粗相」


「ひっん」


 頬を赤く染め、艶やかな声をあげ始めたアテナを無視して、ルークは薪を焚き火へと放り込んだ。

 暗い広場に、舞い上がる火花は天井に届く前に消えてしまう。


「さて、帰るか」


「もういいの?」


「ああ、ここのボスは実は恩人でな」


 何せ、ゴッドハンドの真の使い方を考案したのが、バーミリオンだ。


「じゃ、早く行こう。こんな雌豚放置して」


「……悪くないな、それ」


 確かにまだ放置プレイはしたことがなかった。いっそこの際……。


「いや、やっぱいいや」


 どうせ、そんなことしなくとも、あられもない姿なぞ見れるのだ。

 何せ。


「そう、帰り道があるもんね」


 一人、下衆じみた笑みを浮かべるルークだった。



────


あとがき


お読みいただいてありがとうございます。

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どうぞ、よろしくお願いします!

 


 

 

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