決意の時
「そう……ですか……」
トンネルの出口が見えたと思ったのも一瞬で、またトンネルに入ってしまった気分だよ。どうしよう……転生する? それとも……。
「お主の意思は尊重するが、上下どちらに行っても澤野京子、いや、鶴雅まうは永遠に消滅してしまう。唯一の救済方法は、現世の記憶をとどめたままの転生なんじゃよ」
それはできるのか……。
「あ、あの、ちなみに転生先は、どんなところなんですか?」
ちょっと揺らいできたかも……でも、行き先がよくわからないのは不安材料だよね。
「む? 転生先か? ふっふっふー、安心せい! そこはわしがつい最近創造した世界じゃ!」
「つい最近……てことは……あたしが初の生命体に?」
「なーにを言っておる。すでに中世ヨーロッパくらいの文化レベルには発展しておるよ」
「え? でも最近て……」
「む? そうかそうか! 人間とわしらでは時間の感覚が違いすぎるからのう! 46億年とか、昨日みたいなもんじゃしな!」
……なんか色々わからな過ぎて、どうでもいい感じになってきた気がする……。
「なーんじゃ、その顔は? そんなお主に朗報じゃ!」
「は、はあ……」
「そこ、エニフェズはな──」
「……ん? はあっ!? ちょちょ、ちょっと待った!!」
「な、なんじゃい急に! 驚いたじゃろうが!!」
驚いたのはこっちだよ!
「い、今なんて言いました?」
「ん? エニフェズ、かな?」
「……そそ、それって、あたしの所属していた……」
そう、あたしたち7期生のグループ名、エニィ・フェアリーズの略称……。
不意打ちのような言葉に放心状態のあたしを、神様がにんまりとして見ている。
「どうじゃ? 粋じゃろう?」
「ほ、本当に粋な人は、自分で粋なんて言いませんよ」
「そんなにやけ面で言われてもなあ」
「神様こそにやけてるじゃないですか」
ほんの些細なことだけど、なんだかうれしかった。その程度の事でって思う人もいるかもだけど、あたしは転生してもいいかなって思えたんだ。
「まあな!」
「ふふっ。それで、朗報ってなんですか?」
「おお! そうじゃった! それはな……」
神様が、もったいぶるように口ごもる。
「それは?」
「エニフェズは……なんと!」
「なんと?」
「……みんな大好き剣と魔法の世界なんじゃあ!!」
「やったー! って、ド定番じゃないですか……」
あたしのため息に、神様が頬を膨らませた。
「定番かもしれんがなあ……ガンダルシア……あ……いや、え、エニフェズの魔法大系はな、ちと面白い発展をしておるんじゃぞ!」
「へー、そうなんですか……ん? がんだるしあ?」
何だかひっかかりをおぼえた。
「……」
神様が一瞬、あ、やべって顔したんだけど……。
「あのー、がんだるしあって、その魔法かなにかの名称ですか?」
「……い、いや、そのー、あれだよ、あれ! ほれ、なあ?」
「なあ? って言われてもあたしにはわかりませんよ。で、ガンダルシアって一体なんの名前なんですか?」
嫌な予感しかしない。
「……」
「はあー、転生するの、やめよっかなー?」
「すまん! わしが創造した異世界の元々の名前じゃよ……」
「……」
なんだか裏切られたような気がしてため息も出ない。
「でで、でもな! まうまうが死んですぐにガンダルシアからエニフェズに名称変更したんじゃよ! ここ、これは、ウソではない!!」
「へー……それで現地の人たちは、納得してるんですか?」
「納得も何もわしは創造神じゃぞい。神が今からエニフェズって言ったら、そこにいる生命全ての記憶なんて書き換わるんじゃ!」
「あたしの生き返りはダメなのに?」
「くっ、それとこれとは話が違うんじゃよ……自分が造った世界でならまだしも、他の神が造った
だけど、わたわたと必死に言い訳する神様が、とてもおかしかった。
「はあ、神様って本当に人間みたいなんですね」
「だから、そう言ったじゃろうが!」
色々と思うところはあるけど、あたしのためにここまで一生懸命な
「わかりました。あたし……エニフェズに転生します!」
その宣言に、神様の表情がぱっと明るくなった。
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