澤野京子は鶴雅まうとして転生します!

「よう言った!」


 神様の目が、潤んでいた。小刻みに体全体を震わせている。相当うれしいみたいだ。そんなのを見ちゃうと、何だかあたしもうれしくなってきちゃうけど……確認する事が山盛りなんだよね。それをさっさと片付けよう。


「感激してるところ悪いんですけど……」

「む? なんじゃね?」

「あたしは……どんな転生をするんですか?」

「さっきも言ったが、現世の記憶を待ったままの転生じゃな」

「それは理解しています」

「?」


 あたしの言葉に神様の顔が、じゃあ何じゃ? と言っている。


「よくある転生だと、赤ん坊として生まれ変わる、みたいなのがあるじゃないですか?」

「あるのお」

「あと、現世の記憶を持っているけど、全くの別人……現地人になったり……」

「まあ、そうじゃな」


 神様は、うんうん、と相槌を打っている。


「うまく言えない部分もあるんですけど……あたし、それはちょっと……イヤかなあ……って」

「わしだって嫌じゃわい!」


 突然の大声に、びっくりしすぎて固まった。


「まうまうが別人になったり……ましてや他の誰かの子供になるなど……神が許しても、このわしが許さんぞい!」


 いや、あんたも神様でしょうが……。


「だが安心せい! わしの壮大な計画に、抜かりはない!!」


 あ、壮大な計画って言っちゃったよ!?


「これを見い!」

 虚空に見慣れた可愛らしい人物が浮かび上がった。

「え……あ、あたし?」


 その長い髪は、タンチョウヅルの頭部の一部分にある鮮やかな赤色と同じ色味だ。白と黒を基調とした優雅な翼のようなデザインの衣装。そして何より目を引くのが、その衣装では隠しきれない大きな胸……って、まじまじと見ると、はずかしい……今更だけど……。


「そうじゃ! これはお主の……鶴雅まうの……Dじゃ!!」

「……い、一体どこから持ってきたんですか。企業秘密ですよ、これ……ん?」


 赤面しつつも当然の疑問をぶつけていると、神様の視線があたしと3Dモデルの間を行ったり来たりしている事に気づいた。


「なな、なんですか……?」


 しかも、あろうことかの間でのせわしない往復である。


「……まうまうって」

「……は、はい」


 じ、と本物の胸に神様の視線が固定された。あたしはささっと両腕でその攻撃からお胸を守る。


「なかなかのきょぬーなのに……中の人のぺぇは……残念じゃったんだな……」

「っ!?」


 怒りで身体(霊体だけど)が勝手に動いていた。


 ごいん!


「いだっ!? こ、これ、神に手を上げるとは、何たる──」

「るさい! あたしだって……あたしだってねえ、好きで同期のひんぬーいじりしてたんじゃないのよ!」


 本当にごめんだよ、あんちゃん。


 桜野さくらのあん。

 エニィ・フェアリーズの清楚兼ひんぬー担当……ってこの紹介自体が失礼だよね……。


「ブーメランだとわかっていながら……積極的に他人のぺぇをいじるのは、つらかったんだよ?」

 神様の胸ぐらをつかみ、思い切り締め上げる。

「ぐ、ぐええっ!? ゆるじでくだざい……そ、それよりアイドルが積極的に他人のぺぇをいじるとか言ったら、いろいろ語弊が……ぐ、ぐふぇぇえっ!?」


 あ、神様が泡吹いて白目むいちゃった……。

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