第二十二話 想い

ナオとの会話から数日が経ったが、ケンジの心にはまだどこか重いものが残っていた。ナオの真剣な告白を受けて、彼は自分の気持ちを見つめ直そうと必死だったが、結論を出すことはできずにいた。


そんな中、ある日、ケンジは放課後に一人で図書室に向かった。静かな空間で少しでも気持ちを整理しようとしたのだ。しかし、そこにいたのはマナだった。彼女もまた、一冊の本を片手に持ちながら、何かを考え込んでいるようだった。


「マナ?ここで何してるの?」とケンジが声をかけると、マナは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで答えた。「あ、ケンジ…ちょっと考え事してただけ」


二人はそのまま隣に座り、しばらくの間、無言で本棚を見つめていた。重く沈黙が流れる中、マナがふと口を開いた。


「ケンジ、最近少し元気がないみたいだけど、大丈夫?」とマナは優しく問いかけた。その声には、ケンジを気遣う真剣な思いが込められていた。


ケンジは少し躊躇しながらも、ナオの告白についてマナに打ち明けた。「実は、ナオが俺に…好きだって言ってくれたんだ。でも、俺はどう答えていいか分からなくて…」


その言葉を聞いた瞬間、マナの表情が一瞬だけ硬くなったのをケンジは見逃さなかった。しかし、すぐにマナはいつもの笑顔に戻り、静かに頷いた。「そうなんだ。ナオも勇気を出したんだね」


「俺、ナオのことを大切に思ってるけど、それが恋愛感情かどうか分からなくて…こんな自分が情けなく感じるんだ」とケンジは吐き出すように言った。


マナはじっとケンジの言葉を聞いた後、少しの沈黙を挟んでから、自分の本心を話し始めた。「ケンジ、私も君に言いたいことがあるの」


マナの表情が真剣になり、彼女の瞳がケンジの目をまっすぐに捉えた。「私も、ずっと君のことが好きだった。ナオと同じように、でも怖くて言えなかったの」


ケンジは驚きで言葉を失った。まさかマナまでもが自分に恋愛感情を抱いているなんて、全く予想していなかったのだ。彼は何とか言葉を紡ごうとするが、何も出てこなかった。


「でも、ナオが君に告白したことを知って、私も勇気を出さなきゃって思ったの」とマナは続けた。「だから、君に伝えたくて…私も、君が好きだって」


その言葉が静かな図書室に響き渡り、ケンジの心に新たな動揺をもたらした。ナオとマナ、二人の大切な友達が自分に対して恋愛感情を抱いている。ケンジはこの状況をどう受け止めるべきなのか、まったく分からなくなっていた。


「マナ…俺…」とケンジが言いかけた瞬間、マナは優しい笑顔を浮かべてケンジを制した。「大丈夫、答えは今すぐに言わなくてもいいよ。私もナオも、きっと君の答えを待つから」


「ありがとう、マナ…」とケンジは少しほっとしたように言ったが、その胸の中には複雑な思いが渦巻いていた。自分に向けられる二つの純粋な想いにどう向き合えばいいのか、まだ分からないままだった。


二人はそのまましばらく図書室で話し続け、やがて放課後のチャイムが鳴り響くと共に、それぞれの道へと戻っていった。ケンジはマナの言葉に感謝しつつも、自分がこれから何をすべきかを考え続けていた。

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