第二十一話 本音

ケンジが少しずつ自分の気持ちを整理していく中で、また学校の日々が戻ってきた。放課後、ケンジは偶然にもナオと廊下で出会った。ナオは友達と話していたが、ケンジの姿に気づくと、少し照れたように微笑んで「ケンジ、ちょっと話せる?」と声をかけてきた。


「うん、もちろん」とケンジは即答し、二人は校舎の裏へと向かった。少し風が冷たくなり始めた秋の空気が、彼らの周りを包んでいた。


ナオは立ち止まり、ケンジをじっと見つめたまま少しだけ口を開こうとして、すぐに視線をそらした。何かを言いたいのに、言葉が出てこないような様子だった。


「ナオ、どうしたの?」とケンジは少し心配そうに問いかけた。


ナオは深呼吸を一つしてから、ゆっくりと口を開いた。「ケンジ、私…ずっと言おうと思ってたことがあるの。でも、どうしても勇気が出なくて…」


ケンジはその言葉を聞いて、何かを察したように心臓が少しだけ速くなった。ナオの瞳には、普段とは違う真剣な色が宿っていた。


「ケンジ、私は…ずっと、君のことが好きだったの」とナオが言った瞬間、周りの時間が止まったかのような感覚に陥った。


ケンジは言葉を失い、どう答えればいいのか分からなかった。彼にとってナオは特別な存在であり、友達としての大切さを感じていたが、恋愛感情とは違うものであることも感じていた。


「ナオ…俺は…」とケンジが何とか言葉を紡ごうとした瞬間、ナオが手を挙げて制した。「わかってる。答えは言わなくてもいい。私は、ただ伝えたかっただけだから」


ナオは微笑みながらも、その笑顔の裏には少しの悲しみが見え隠れしていた。彼女は自分の気持ちを伝えたことで、一歩前に進むための決意を固めたようだった。


「ありがとう、ケンジ。君と友達でいられることが、私にとって一番大切なことだから」とナオは静かに言い、ケンジに背を向けて歩き出した。


その背中が少しずつ遠ざかっていくのを見つめながら、ケンジは自分の中にある感情の渦に戸惑っていた。ナオの気持ちに答えることができない自分がいて、でもそれでも彼女を大切に思う自分もいる。


「俺って、本当にどうすればいいんだろう…」とケンジは独り言のように呟いた。自分の心の中には、まだ整理しきれない感情がたくさんあった。ナオに対する友情、そしてマナへの戸惑い、さらには自分自身の成長への迷い。


放課後の静かな校舎裏に立ち尽くしながら、ケンジはその場に一人残されたまま、ただ風が吹く音を聞いていた。彼の心には、まだ見えない答えを探し求めるような思いが渦巻いていた。

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