第二十話 新風

翌日、ケンジはカナミとの買い物に出かけるために少し早めに起きた。休日の朝の柔らかな光が窓から差し込み、心地よい眠気を残しながらも、今日は少し特別な一日になる予感がしていた。家の外では、すでにカナミが準備を整えて、ケンジを待っていた。


「遅いぞ、ケンジ!」とカナミは半分冗談を交えたような口調で笑いながら言った。


「姉ちゃんが早すぎるだけだよ」とケンジは軽く笑い返し、二人はそのまま街へと向かうことにした。街には人々が行き交い、休日らしい活気が漂っていた。そんな中で、ケンジは少しずつ自分の気持ちが軽くなっていくのを感じた。


カナミと一緒に雑貨店やカフェを巡りながら、ケンジは自分が話すたびに、少しずつ心がほぐれていくのを感じていた。カナミもケンジの話に真剣に耳を傾け、笑ったり、アドバイスをくれたりしていた。そんな二人の姿は、まるで昔からの親友のようだった。


「ケンジ、最近友達とどうなの?」とカナミが不意に尋ねた。


「うーん、まぁ色々あったけど…でも、ナオとはまた友達に戻れたし、マナはなんだかんだで優しいしさ」とケンジは少し照れくさそうに答えた。


カナミはふと表情を柔らかくして、「それなら良かった。恋って難しいけど、ちゃんと向き合うケンジは偉いよ」と優しく言った。


その時、カナミの目がふと遠くを見つめ、何かを考えているようだった。そして、少し寂しそうな微笑みを浮かべて、「あの頃の私も、そんな風に素直に向き合えていればなぁ…」と独り言のように呟いた。


「姉ちゃん?」ケンジはその言葉に反応して、カナミを見つめた。


「ごめんね、ちょっと昔のことを思い出しちゃった」とカナミはすぐに笑顔を取り戻したが、ケンジにはその笑顔の裏に何か隠しているように見えた。カナミの過去には、まだ知らない何かがあるのだろうかと、ケンジは少しだけ気になった。


午後も二人でいろいろな店を回りながら、笑ったり話したりして過ごした。途中で、カフェで休憩を取ったとき、ケンジはふと、自分の中で固まっていたものが少しずつほどけていく感覚を覚えた。


「ケンジ、これからのこと、あんまり急いで決めなくてもいいんだよ」とカナミがコーヒーを飲みながら言った。「大切なのは、ゆっくり自分の気持ちに正直でいること。焦らずに、少しずつ進んでいけばいいんだから」


ケンジはその言葉にじっくりと耳を傾け、自分の中で少しずつその意味を噛みしめた。ナオへの未練、マナへの戸惑い、すべてを焦らずに受け入れていくこと。それが今の自分にとって一番大切なことなのかもしれないと感じた。


夕方、買い物を終えて帰る途中、カナミがふと立ち止まり、ケンジの顔をじっと見つめた。「ケンジ、あなたはきっと、どんな時でもまっすぐに成長していくんだと思うよ。そして、その成長の中で、ちゃんと自分の答えを見つけられる人になる」


ケンジはその言葉を聞いて、少し照れながらも力強く頷いた。「ありがとう、姉ちゃん。俺、頑張るよ」


カナミは微笑んで、ケンジの頭を軽く撫でた。「うん、その言葉が聞けて嬉しいよ」


二人の帰り道は、これまでよりも少しだけ静かで、でも心の中には確かな絆が感じられた。ケンジはこれからのことに少しずつ自信を持ち始めていた。まだ答えは見つかっていないけれど、少しずつでも前に進んでいこうと決意したのだ。

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