第十七話 心中
週明け、ケンジの気持ちは少しずつ整理され始めていた。自分の想いをナオに伝えるために、一歩ずつ進もうと決意していた。だが、それでも彼の心には不安が渦巻いていた。「もしナオが俺のことをどうでもいいと思っていたら…」という考えが、どうしても頭から離れなかったのだ。
放課後、ケンジは部活が終わるのを待って、ナオを校門で待つことにした。風が少し肌寒く感じられる中、彼の心はまるで鼓動が響くようにドキドキと高鳴っていた。
「お待たせ!」と、ナオが部活終わりの制服姿で校門に現れた。髪が少し乱れている姿も愛おしく感じられるケンジは、言葉が詰まりそうになるのを必死でこらえた。
「ナオ、ちょっと話があるんだ」とケンジは口を開いた。声が少し震えていたのを自覚しながらも、何とか言葉を絞り出した。
ナオは少し驚いた表情を見せたが、微笑みながら頷いた。「うん、いいよ。どうしたの?」
二人は近くの公園に移動し、ベンチに座った。夕暮れの柔らかな光が二人を包み込み、ケンジの緊張を少しだけ和らげてくれた。彼は深呼吸をして、言葉を選びながら慎重に話し始めた。
「ナオ、俺…君のこと、ずっと気になってたんだ」とケンジはまっすぐな目でナオを見つめた。「最初はただの友達だと思ってたんだけど、一緒にいる時間が増えるたびに、君のことがどんどん好きになっていって…」
ナオはケンジの言葉に耳を傾け、少しずつ表情を柔らかくしていった。しかし、彼女の瞳には少しだけ複雑な感情が宿っているようにも見えた。
「ありがとう、ケンジ。私のことをそんなふうに思ってくれて…」ナオは静かに言葉を紡いだ。「でも、私には今、気になる人がいるの」
その言葉を聞いた瞬間、ケンジの心がまるで氷のように冷たくなったのを感じた。期待していた答えではないことを理解しながらも、彼は必死に笑顔を作ろうとした。「そっか…そうだよな。ごめん、急にこんなこと言って」
ナオはケンジの気持ちを察したのか、優しく微笑んだ。「ケンジは本当に優しい人だし、一緒にいて楽しいって思ってる。だから、これからも友達でいてほしいの」
「もちろんだよ、ナオ。これからも、友達で」とケンジはぎこちなく笑いながら答えた。その瞬間、自分の言葉が嘘ではないことを確信した。ナオの気持ちを尊重し、友達として彼女のそばにいることを選ぶ。それが今の自分にできる最善のことだと理解したからだ。
その日の夜、ケンジは一人部屋で天井を見つめていた。自分の気持ちをナオに伝えられたことで、少しだけ胸のつかえが取れたように感じたが、それでも心の中には痛みが残っていた。だが、その痛みを抱えながらも、彼は少しずつ前に進もうと決めたのだった。
ふと、スマホにメッセージの通知が入った。それはマナからだった。「ケンジ、大丈夫だった?」というシンプルなメッセージに、彼女の優しさが詰まっているように感じられた。
ケンジはゆっくりと返信を打った。「ありがとう、マナ。うん、大丈夫。ちょっとだけ、心が軽くなったよ」
その瞬間、彼は気づいた。自分にはまだ、周りに支えてくれる人がいること。そして、ナオに振られたことがすべての終わりではなく、新しい始まりの一歩かもしれないことに。
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