第十二話 俺は…
ケンジの周囲の人間関係が少しずつ複雑になっていく中、彼の友人であるミカにも変化が訪れようとしていた。ミカはいつも明るく、どんなときでもケンジを元気づけてくれる存在だったが、最近は少し様子が違うように見えることがあった。
ある日、放課後の教室で、ミカが何かを考え込んでいるのを見つけたケンジは、心配になって声をかけた。「ミカ、大丈夫か?最近、何かあったのか?」
ミカは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべてみせた。「ううん、大丈夫だよ、ケンジ。でも、ちょっと考えることがあってさ」
「考えること?」とケンジはさらに気になり、ミカの顔を覗き込むようにして尋ねた。
ミカはしばらく視線をそらしていたが、やがて意を決したように口を開いた。「実はね、ケンジには黙ってたけど、私、少しだけ悩んでることがあるんだ。でも、それを話しても笑わないでね?」
ケンジは真剣な表情でうなずき、ミカの言葉を待った。
「私、実はケンジのこと……少し気になってたんだ」
その言葉を聞いて、ケンジは驚きを隠せなかった。今まで友達として接してきたミカが、自分に対してそんな気持ちを抱いていたことなど、まったく気づいていなかったのだ。
「ミカ……」
ケンジが何か言おうとすると、ミカはすぐに手を振って彼の言葉を制した。「でもね、私、今はそれでいいの。ケンジがナオ先輩を好きだってこと、分かってるから。だから、私は友達として、ケンジのそばにいることが一番だと思ってる」
ミカの言葉には、切ないけれど確かな友情と決意が込められていた。その笑顔には強がりのようにも見えるが、それでもケンジにとっては彼女の存在がどれだけ大切かを改めて感じさせるものだった。
「ミカ、ありがとう。君がいてくれることが、どれだけ助けになってるか分からないよ」とケンジは心から感謝の気持ちを伝えた。
ミカは少し照れくさそうに笑ったが、目には少しだけ涙が浮かんでいるようにも見えた。「ほんと、私がケンジを支えるって決めたんだから!だから、もっとナオ先輩にアタックしてもいいんだよ!」
そう言いながらも、ミカの言葉には少しの寂しさが隠されていることを、ケンジは感じ取った。ミカの気持ちを無駄にしないように、彼はさらに自分の気持ちに向き合い、ナオに対してまっすぐにぶつかる覚悟を固めた。
その日の帰り道、ケンジは一人で考え込んでいた。ナオへの気持ち、マナの告白、そしてミカの優しさ。それぞれの気持ちが重なり合い、ケンジの心の中で渦を巻いていた。
「俺はどうすればいいんだろうな……」と呟くケンジに、突然後ろから誰かが肩をポンと叩いた。
振り返ると、そこには姉のカナミが立っていた。彼女は微笑んで、ケンジの肩に手を置いたまま言った。「悩んでるわね、ケンジ。恋愛って難しいけど、それがまた楽しいところでもあるのよ」
「姉ちゃん……」ケンジは少し困惑した表情で彼女を見つめた。
「どんなに悩んでも、最後に決めるのはあんた自身よ。でも、あんたならきっと大丈夫。周りの子たちがあんたのことをこんなに想ってくれてるんだから、自信を持ちなさい」とカナミは優しく言い聞かせた。
ケンジはカナミの言葉に少しずつ勇気を取り戻していった。そして、心の中で一つの決意を固めた。ナオへの気持ちをもっとまっすぐに伝えよう、そして周りの大切な人たちにも正直であろうと。
次の試練がどんな形で訪れようとも、ケンジはそれに立ち向かう覚悟ができたのだった。
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