第十一話 秘密知らず

ケンジがナオとカズヤ、そしてマナとの関係に悩みながらも、少しずつ成長している中、ある出来事が彼の前に大きな影を落とした。それは、ナオの過去にまつわる噂だった。


ある日、クラスの数人が集まって話しているのが耳に入った。話題はナオのことだった。


「ナオ先輩って、昔はすごく明るい子だったらしいよね。でも、ある事件がきっかけであんなに無口になったんだって」


「そうそう、確か家族に何かあったって聞いたことがある」


ケンジはその話を聞いた瞬間、ナオが抱えている秘密について思い当たるものがあった。彼女の瞳に時折見える悲しみの影、その理由が少しずつ明らかになりつつあるのではないかと感じた。


その日の放課後、ケンジはカズヤを探し出し、真剣な表情で尋ねた。「カズヤ、ナオの過去について何か知ってるのか?」


カズヤは少し驚いたような顔をしたが、すぐに視線を落とし、静かに話し始めた。「ケンジ、実は俺も知ってるんだ。でも、ナオが話したがらない限り、俺たちがそのことに触れるのは良くないと思ってる」


カズヤの言葉に、ケンジは一瞬黙り込んだ。自分が知りたいと強く思う気持ちと、ナオの気持ちを尊重したいという気持ちがぶつかり合っていたのだ。しかし、カズヤの表情からは彼自身もその事実に苦しんでいることが見て取れた。


「ケンジ、ナオのことは俺も本当に大切に思ってる。だからこそ、ナオが話す準備ができるまで、俺たちはそっと見守るしかないんだ」


カズヤの言葉には、深い決意と優しさが込められていた。その瞬間、ケンジは自分がナオを理解するためにはもっと多くの時間が必要だと悟った。焦る気持ちを抑え、彼女の気持ちを待つことを決めた。


その夜、ケンジは自宅のリビングで、姉のカナミにそのことを話した。カナミは彼の話を静かに聞きながら、優しい笑顔を浮かべた。


「ナオちゃんが何かを抱えているのは、あんたも前から感じてたんでしょ。でもね、ケンジ、人の心ってすぐには開かないものなのよ。時間をかけてゆっくりと寄り添ってあげることが、今のあんたにできる一番のことなんじゃないかな」


ケンジはカナミの言葉に深く頷いた。自分ができることは、ナオにとっての支えになること。焦らずに、彼女の気持ちを待ちながら成長していくことだと決意した。


次の日、ケンジはナオに話しかけるために校舎の屋上に向かった。そこには、先にナオとカズヤが二人きりで話している姿があった。ケンジは少し躊躇したが、そのまま二人に近づくと、ナオが驚いたように振り返った。


「ケンジくん……」


ナオの顔には一瞬の驚きが走ったが、すぐに穏やかな表情に変わった。ケンジは少し緊張しながらも、笑顔でナオに話しかけた。「ナオ、俺は君のことをもっと知りたいって思ってる。でも、君が話したくないことなら無理に言わなくてもいい。ただ、俺たちがそばにいることだけは忘れないでくれ」


ナオはケンジの言葉を聞きながら、少し涙ぐんだ目で彼を見つめた。そして、小さな声で「ありがとう」とつぶやいた。その言葉には、少しずつ心を開き始めた彼女の気持ちが込められているように感じた。


ケンジ、ナオ、そしてカズヤの三人の関係は、今後どうなっていくのか。彼らの未来にはまだ多くの試練と葛藤が待ち受けていることだろう。しかし、彼らはその試練に立ち向かいながら、少しずつ大切なものを見つけていくのかもしれない。

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