第十話 解けない謎
ケンジの心がナオとの会話によって少しだけ安定した頃、マナが意外な形で彼の前に現れた。放課後、彼が校門を出ようとした時、マナが待ち伏せしていたのだ。彼女の表情は、今までに見たことのない真剣なものであった。
「ケンジくん、少し時間もらってもいい?」
マナの声はどこか強く、そして覚悟が込められているように感じられた。ケンジは少し驚きながらも頷き、近くの公園へと足を運んだ。公園のベンチに座ると、マナは深呼吸をしてからケンジに向き合った。
「この前の告白のことだけど、ちゃんともう一度言いたいの」
マナの言葉に、ケンジは少し緊張した面持ちで彼女を見つめた。彼女の瞳には、強い意志と揺るぎない感情が宿っていた。
「ケンジくん、私はずっとあなたのことが好きだった。でも、ナオ先輩のことも知ってるし、あなたの気持ちもなんとなく分かってる。だからこそ、私は諦めないことに決めたの」
ケンジはその言葉に少し息を飲んだ。マナの決意が、彼の心に強く響いたのだ。彼女の告白は、一途な想いと負けん気を含んでおり、ケンジにとっては新たな悩みの種ともなった。
「ありがとう、マナ。でも、俺はまだナオのことが……」
そう言いかけた瞬間、マナは微笑みながら言葉を遮った。「分かってる。でも、だからこそ私は負けない。ナオ先輩がどれだけすごくても、私はあなたの隣に立てるように頑張るから!」
マナのその言葉に、ケンジは思わず笑みがこぼれた。彼女の強さと前向きな姿勢に、少しずつ心が解きほぐされていくような感覚を覚えたのだ。
「マナ、本当にありがとう。君の気持ちはすごく嬉しい。でも、俺も自分の気持ちに正直でいたい。だから、少しだけ待ってくれないか?」
ケンジの言葉に、マナは少しだけ表情を曇らせたが、すぐにまた笑顔を取り戻した。「もちろんだよ!私はケンジくんのこと、どんなに時間がかかっても待ってるから!」
その言葉を聞いて、ケンジはマナの存在が今まで以上に大きくなっていることを感じた。彼女の告白が、彼の心に確かな温もりをもたらしていた。
その夜、ケンジは家で姉のカナミに今日の出来事を話した。カナミは優しく微笑みながら、ケンジの話を聞いていたが、やがてふと真剣な表情になった。
「ケンジ、あんたのことを好きだって言ってくれる子がいるのは本当に幸せなことよ。でも、自分の気持ちを大切にするのも忘れないでね。無理に誰かを選ぶ必要はないんだから」
ケンジはカナミの言葉に静かに頷いた。自分の気持ちを大切にしながらも、ナオやマナ、そして自分自身の成長を見守っていくことを心に決めた。
しかし、ケンジの心にはまだ解けない謎が残っていた。ナオの秘密、カズヤとの会話、そして自分に向けられたマナの決意。それらすべてが絡み合い、これからの彼の高校生活に大きな波紋を広げていく予感がしていた。
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