第八話 ドロドロ
マナとのやり取りから数日後、ケンジは気持ちの整理をしながらも、再びナオに向き合う決意をしていた。マナの告白を受け止めつつも、自分の中でナオへの思いがさらに強くなっていることを感じていたからだ。
ある日の放課後、ケンジはナオを屋上に呼び出した。風が少し冷たくなり始めた秋の空の下、ナオはケンジの呼びかけに応じて静かに歩み寄った。
「ナオ、実はずっと聞きたかったんだ。前に話そうとしてたこと、あれって何だったんだ?」
ナオは一瞬だけためらいを見せたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「ケンジくん、実は私……」
その言葉を言いかけた時、ナオの携帯が突然鳴り出した。彼女は慌てて携帯を取り出し、画面を見た瞬間に顔色が変わった。ケンジはその変化に気づき、不安な気持ちが胸を締め付けた。
「ごめん、ケンジくん。今は話せないみたい……」
ナオは申し訳なさそうに言い、急いでその場を去ろうとした。ケンジは彼女を引き止めることができず、ただ立ち尽くしていた。その背中を見送りながら、彼はナオが何か深刻な問題を抱えているのではないかという疑念を抱き始める。
翌日、ケンジはカナミにその出来事を話した。カナミは真剣な顔でケンジの話を聞き、しばらく黙っていたが、やがて穏やかな口調で言った。
「ケンジ、ナオちゃんが何か秘密を抱えているとしても、それを無理に暴こうとするのはやめた方がいいわ。彼女が自分から話す準備ができるまで、待ってあげることが大切よ」
カナミの言葉にケンジは頷いた。焦る気持ちを抑えて、ナオがいつか自分に心を開いてくれるその時を待とうと決めた。
しかし、その日の放課後、ケンジは思いもよらない光景に遭遇する。ナオが誰かと会話しているのを見かけたのだ。相手は、カズヤだった。彼はナオに何かを話しかけており、その表情はどこか真剣だった。ナオもまた、いつもの穏やかな表情とは違い、緊張した様子でカズヤの話に耳を傾けていた。
ケンジは二人のやり取りを遠くから見つめながら、胸の奥に何かが引っかかるのを感じた。カズヤとナオがどういう関係なのか、何を話しているのかが気になって仕方なかった。
その夜、ケンジはベッドに横たわりながら、頭の中で考えを巡らせていた。ナオが抱えている秘密とは一体何なのか、そしてカズヤがその秘密に関わっているのか。答えの見えない疑問が、彼の心に暗い影を落としていた。
一方、マナのことも頭から離れなかった。彼女の告白はケンジにとって大きな意味を持っていた。マナが自分にどれほどの気持ちを寄せているのかを知っているからこそ、その想いに応えられない自分が歯がゆくてならなかった。
「俺は、どうすればいいんだ……」
ケンジは呟きながら天井を見つめたまま、答えの見えない問いに苦悩していた。そして、彼の中でナオへの想いが一層強まる一方で、マナの優しさや彼女の存在が心の中で少しずつ大きくなっていくのを感じていた。
そんなケンジの葛藤はまだまだ続きそうだった。ナオの秘密、カズヤの存在、そしてマナの気持ち。それらが絡み合い、彼の心を揺さぶり続けるのであった。
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