第五話 二人きり
数日が経ち、ケンジは相変わらず恋に悩む日々を過ごしていた。ナオに対する憧れ、マナの優しい想い、そしてアヤカの存在感。三人の少女がケンジの心を揺さぶり続けていた。
そんなある日、学校の授業が終わった後、ケンジは教室でナオと二人きりになるチャンスを得た。彼は胸の高鳴りを感じつつも、何とかナオと話をするための勇気を振り絞った。
「ナオ、ちょっと話してもいい?」
ナオは驚いたようにケンジを見つめたが、すぐににっこりと笑顔を浮かべて頷いた。
「もちろん、ケンジくん。どうしたの?」
その笑顔に、ケンジは少しだけ言葉を詰まらせた。しかし、自分の気持ちを少しでも伝えたいという想いが彼を動かした。
「俺、ナオのことが気になってるんだ。いつも明るくて優しいし、みんなのことをすごく考えてるところが好きで……だから、もっと仲良くなりたいって思ってる」
その言葉を聞いたナオは一瞬、驚いたような表情を浮かべた。しかし、次の瞬間、彼女の笑顔が少し曇ったように見えた。
「ありがとう、ケンジくん。そんなふうに思ってくれて嬉しいよ。でも……」
ナオの視線が少し遠くを見つめるように揺れた。ケンジはその変化に気づき、不安な気持ちが胸をよぎる。
「でも、今はちょっと複雑なんだ。実は……」
ナオが何かを言いかけたその瞬間、突然教室の扉が勢いよく開いた。ミカが息を切らせながら駆け込んできた。
「ケンジ!大変だよ!マナちゃんが屋上で泣いてるんだって!」
その言葉にケンジは驚いて立ち上がった。マナが泣いているなんて、彼の心に強い動揺が走った。ナオも少し驚いた顔をしていたが、優しくケンジの肩に手を置いた。
「行ってあげて、ケンジくん。マナちゃんを放っておけないでしょ?」
その一言に背中を押されるように、ケンジは屋上へと駆け出していった。屋上に到着すると、そこには涙を浮かべながら佇むマナの姿があった。彼女はケンジに気づき、泣きそうな顔で笑ってみせた。
「ケンジくん……」
「マナ、どうしたんだ?なんで泣いてるの?」
ケンジの問いかけに、マナは一瞬言葉を詰まらせたが、やがて小さな声で告げた。
「私……ケンジくんのことが好きだって言ったのに、それなのにケンジくんはナオちゃんばかり見てる。私のこと、全然見てくれないんだもん……」
その言葉に、ケンジは何も言えなくなった。マナの想いにどう向き合えばいいのか、自分の中の答えがまだ見つかっていないのだ。
「ごめん、マナ……俺、自分の気持ちがまだ整理できてなくて。ナオのことも気になるけど、マナのことも大切に思ってるんだ。ただ、それが恋なのかどうか、まだよく分からなくて……」
マナは涙を拭いながら、少しだけ微笑んで頷いた。
「うん、わかってる。ケンジくんの気持ちがどこに向かってるのか、ちゃんと見守るから。でも、私のことも忘れないでほしい。私はずっとケンジくんの味方だから」
その言葉に、ケンジは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。マナの真っ直ぐな想いに応えたい気持ちと、ナオに対する憧れが交差して、彼の心はさらに揺れ動く。
その日、帰り道を歩きながらケンジは考え続けた。ナオが言いかけた言葉の続きを聞くことができなかったこと、そしてマナの涙。自分の気持ちがどこに向かうのか、まだ何も決まっていない。
そして、ふとアヤカのことも思い出した。彼女のミステリアスな存在感が、ケンジの心に新たな火種を灯していた。これからどんな恋の試練が彼を待ち受けているのか、ケンジ自身もまだ知る由もなかった。
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