第四話 数日後

数日後、ケンジは自分の心の中でナオとマナの存在が複雑に絡み合っていることに気づいていた。ナオに対する憧れや好意と、マナの真っ直ぐな想いに向き合うことへの戸惑い。彼にとって高校生活は、まさに恋愛という名の波に飲み込まれたかのようだった。


そんな中、新しい人物が現れることになった。その日の放課後、ケンジは学校の近くにある公園で、ふとした偶然で知らない少女と出会う。彼女は一人ベンチに座り、何かを考え込んでいるようだった。


「何してるんだろう……?」


ケンジは気になって声をかけてみることにした。


「こんにちは、ここで何してるの?」


少女はケンジに驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑んで答えた。


「あ、こんにちは。ちょっと考えごとしてただけ。あなたは?」


「俺は近くの高校に通ってるケンジって言うんだ。君は?」


「私はアヤカ。転校してきたばかりで、まだここのことよく分からなくてさ」


アヤカはそう言って、少し恥ずかしそうに笑った。その笑顔にケンジはどこか惹かれるものを感じた。彼女の持つ雰囲気はナオやマナとはまた違っていて、少しミステリアスなものを感じさせた。


「そっか。転校生なんだね。何か困ったことがあったらいつでも言ってよ。俺もそんなに頼りにはならないかもしれないけどさ」


「ふふ、ありがとう、ケンジくん。ちょっと安心したかも」


その後、二人は少しだけ会話を交わしたが、アヤカが立ち上がって言った。


「じゃあ、今日はここでお別れね。また会えるといいな」


そう言い残してアヤカは去っていったが、彼女の後ろ姿がケンジの脳裏に焼きついていた。その日の帰り道、ケンジはアヤカのことが何度も頭をよぎった。初めて会ったばかりなのに、なぜか彼女のことが気になって仕方がなかったのだ。


その夜、ケンジは家に帰ると姉のカナミにその出来事を話した。カナミは興味津々な表情でケンジを見つめ、意地悪そうに言った。


「へえー、新しい子に一目惚れしちゃったの?さすが、ケンジもやるじゃん!」


「ち、違うって!そんなこと言ってないだろ!ただ、ちょっと気になる子だっただけで……」


ケンジは顔を赤くして否定するが、カナミはからかうように笑い続けていた。


「ま、まぁね。でもさ、恋愛ってのは人と人がぶつかり合うものだから、いろいろ大変かもよ?」


その言葉にケンジは少し考え込んだ。ナオのこと、マナのこと、そして新たに現れたアヤカのこと。自分の気持ちがどこに向かうのか、まだ何も分からない。ただ一つ言えることは、この恋の物語はまだ始まったばかりだということ。


次の日、学校ではまたナオと顔を合わせた。彼女と話すたびに感じる胸の高鳴りが、ケンジの中で再び混乱を引き起こした。そして、教室でマナの視線を感じるたびに、その優しさにどう向き合えばいいのかを考え続けた。


さらに、アヤカと再会する可能性も心のどこかで期待している自分に気づき、ますます混乱していく。自分の気持ちが一体どこに向かうのか、この揺れ動く恋の行方にケンジ自身が翻弄される日々が続いていくのだった。

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