第二話 俺って…

ナオと一緒に校門を出たケンジは、いつもより少し速い心拍数を感じながらも、彼女との会話を楽しんでいた。ナオは同じクラスということもあり、趣味や好きなことについて話題が尽きなかった。


「そういえば、ケンジくんって部活とか入る予定はあるの?」


ナオが問いかけると、ケンジは少し考えたあとに首を傾げた。


「まだ決めてないんだ。どの部活がいいのか、いまいちピンとこなくてさ。ナオはどうするの?」


「私はテニス部に入ろうかなって思ってるの!中学の頃からやってて、もっと上手くなりたいし」


ナオの目は輝いていて、その意志の強さが伝わってきた。ケンジは彼女のその姿に、少し羨ましい気持ちを抱いた。自分も何か夢中になれるものを見つけたい、そう心の中で思った。


歩いていると、前方にミカが友達と談笑している姿が見えた。ミカはケンジに気づくと、からかうような笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。


「おやおや、ケンジくん、もうナオちゃんと一緒に帰ってるの?いい感じじゃん!」


「そ、そんなことないって!」


ケンジは顔を赤らめながら慌てて否定するが、ナオは照れくさそうに微笑んでいるだけだった。この微妙な空気に少し戸惑いながらも、ミカは冗談を続けた。


「でもさ、ナオちゃんはモテるからね~、ライバル多そうだし、気をつけなよ、ケンジ!」


その言葉に、ケンジは少し焦りを感じた。ナオが他の誰かに取られてしまうかもしれないという思いが、胸の中でわずかに痛んだのだ。しかし、すぐにそんな自分の気持ちに驚いた。ナオとはまだ友達になったばかりで、こんなに早く特別な感情を抱くなんて予想外だったからだ。


その後、ナオとは駅前で別れたが、ケンジは彼女の姿が見えなくなるまで見送った。その時、何かを心に決めたように拳を軽く握りしめた。


「俺も、何かを始めなきゃいけないのかもな……」


家に帰ると、ケンジは姉のカナミにその日の出来事を報告した。カナミはニヤリと笑って、からかうように言った。


「ふーん、ナオちゃんって子と仲良くなったんだ?なんだか楽しそうだね。で、どうなの?ナオちゃんのこと、好きになりそう?」


「そ、そんなことないって!まだ友達になったばかりだし……」


ケンジは顔を赤くして否定するが、カナミは兄弟ならではの直感で、ケンジの動揺をしっかりと見抜いていた。


「まあまあ、焦らなくていいんじゃない?高校生活はまだ始まったばかりなんだし。いろんなことがこれから起こるんだからさ、ゆっくり楽しみなよ」


カナミの言葉に、ケンジは少しだけ気持ちが楽になった。しかし、心の中ではナオに対する特別な感情が少しずつ芽生えていることを自覚し始めていた。


その夜、ケンジは布団の中で目を閉じながら、ナオの笑顔を思い出していた。彼女との距離を少しずつ縮めていきたいと願う一方で、自分にはまだそれを実現するための自信が足りないと感じていた。


「俺って、ナオのことが……」


自分の気持ちに少し戸惑いながら、ケンジはそっとつぶやいた。これが、彼の長い恋の始まりであり、その先に待ち受ける成長と試練を予感させる夜となったのだった。

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