第一話 スタート

校舎に入ると、ケンジは自分の教室を探しながら緊張感を押し隠すように歩いていた。教室の入り口に到着し、恐る恐るドアを開けると、すでに多くの新入生たちが席についていて、談笑していたり、自己紹介をしたりと賑やかな光景が広がっていた。


「おーい、こっちこっち!」


教室の隅のほうから、元気な声がケンジを呼んだ。振り向くと、そこには中学時代の友達、ミカが手を振っていた。ミカはケンジと同じ中学出身で、いつも明るくて、ムードメーカー的な存在だった。


「ミカ、同じクラスか!よかった、知ってる顔がいてホッとしたよ」


「そうだね!私もケンジがいて安心した。ほら、こっちに座ろうよ!」


ケンジはミカに誘われて、その隣に座ることにした。隣に座ることで少しリラックスし、周りを見渡すと、いろんな顔ぶれが視界に入った。みんなが新しい友達を作ろうと積極的に声をかけ合っている姿を見て、ケンジも少し勇気を出してみようと思い始めた。


そのとき、再びナオと目が合った。彼女は少し離れた席に座っていたが、ケンジに気づくとニコッと笑って軽く手を振った。その笑顔は、まるで春の日差しのように暖かく、ケンジの心を不思議と落ち着かせた。


「ナオさんって、優しそうな人だね。知り合い?」


隣に座るミカが小声で尋ねてきた。ケンジは少し照れくさそうに頷きながら答えた。


「うん、さっき校門のところで少し話したんだ。すごく感じのいい子だよ」


「ふーん、ケンジってば、早くもフラグ立ててるんじゃないの?がんばれよー!」


ミカはニヤリと笑いながらからかうように言った。ケンジは顔を赤くして「違うって!」と慌てて否定するが、どこか浮き足立つ気持ちは否めなかった。


すると、教室のドアが開き、新しい先生が入ってきた。クラス担任の先生は、背が高くて少し堅苦しい印象を受ける中年の男性だった。しかし、その厳しい顔つきの中にも優しさが垣間見えた。


「皆さん、ようこそ新しい生活へ!私はこのクラスの担任の佐々木です。これから一緒に頑張っていきましょう」


先生の挨拶とともに、新しい高校生活が本格的に始まることを感じたケンジ。まだ少し戸惑いが残るものの、ここから始まる日々がどんなものになるのか、期待と不安が交錯する。


その日の放課後、ケンジは校舎を出ようとしたところで、偶然にもナオと再び顔を合わせた。


「ケンジくん、これから一緒に帰らない?」


ナオが恥ずかしそうに微笑みながら誘ってくれたその瞬間、ケンジの心は一瞬止まったように感じた。この何気ない誘いが、彼の高校生活にどんな影響を与えるのか、彼自身まだ知る由もなかった。

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