青春迷宮にて。
蛇トロ
エピローグ 青春の春風
新しい制服に袖を通したケンジは、胸の内に少しの緊張を抱えながら自宅の鏡を見つめていた。高校生活が始まるということが、まだどこか現実味を帯びていない。いつもより少し大きく見える制服と、自分が本当にその制服を着こなせているのかという不安が心をざわつかせる。
「大丈夫、ケンジ。君ならうまくやれるって!」
横から軽く肩を叩かれたケンジが振り向くと、そこには姉のカナミが微笑んで立っていた。カナミはいつもケンジのことを気にかけてくれる優しい存在で、彼にとって頼りになる相談相手でもある。
「なんか、すごい緊張してる顔してるよ?初めて学校に行くんじゃないんだからさ」
「う、うるさいな。別に緊張してるわけじゃないし……ただ、ちょっとだけ……」
ケンジは頬を赤く染めながら目を逸らす。彼の言葉を遮るようにカナミは笑顔で言った。
「まぁ、気にしなくていいよ。新しい友達もすぐにできるし、きっと楽しいことがいっぱい待ってるよ。焦らないで、ケンジらしくね」
ケンジは姉の言葉に少しだけ勇気をもらい、深呼吸をしてから玄関のドアを開けた。その瞬間、春風がふわりと吹き抜け、桜の花びらが彼の周りを舞い踊るように舞い上がる。
学校へ向かう道すがら、ケンジはふと空を見上げた。青い空と満開の桜が広がり、まるで新しい日々の始まりを祝福しているかのようだった。周りには同じように新入生らしい面々が、友達と笑い合いながら歩いている。自分もこの中に混じって、新たな出会いを迎え入れることができるのだろうか。そんな思いが、彼の心を揺らしていた。
校門をくぐった瞬間、一人の少女と視線が交わる。その少女は、同じく新入生であることが一目で分かる制服姿で、桜の下で一瞬、風に揺れる髪が光を浴びて輝いて見えた。
「こんにちは!あなたも新入生?」
その少女、ナオが笑顔で話しかけてきた。ケンジは少し驚きながらも、なんとか笑顔を返した。しかし、心の中ではドキドキと高鳴る鼓動を抑えられないままだった。
この瞬間が、ケンジの新しい青春の始まりだった。彼はまだ気づいていなかったが、この春風のような出会いが、彼の人生を大きく変えていくことになる。
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