第1話 ヒロインたちは〇〇しかいない話 後編
「ふぅ、分かったわ。一旦彼の所有権について保留にするから、そろそろ話を戻しましょう。私が改造計画を提案した理由を」
「出来れば改造自体なしにして欲しいんだけど」
「私がこの話を持ち掛けた切っ掛けは偶然彼と組む事になった
幼馴染として物騒な単語をやめて欲しい愛華の発言を無視する。持って来たノートサイズのタッチパネルを操作する雪奈。写真や動画のファイルを開くと室内に設置しているテレビ画面と繋げて動画を再生させた。
『【―――原初を司る】【それは幻想の―――】【―――そして我は求める者】―――【マテリアル・オーダー】』
映像の向こうでは聞き取りづらいが何か詠唱を唱えた青年が見える。魔法が発動したのかボロボロだった私服の格好から一部に黒の鎧を纏った青と赤のラインが付いた戦闘服、腰に黒光のダガーのような短剣と同じく黒い銃、あと特注のようなサングラスが装着されていた。
『……散らしてやるよ。お前らの腐った魔法と性根を』
使い方が分かっているのか迷うことなく青年が銃を抜く。襲い掛かって来た男の魔法使いに向かって容赦なくぶっ放した。
さらに他の男が炎魔法で攻撃して来るが、青年は流れるように躱すと黒いダガーを抜いてその男にも一切躊躇なく斬りかかって行った。
『さぁ……次はどいつだ?』
他にも敵がいるようだが、皆怯えているのが映像越しでもよく分かる。
サングラスをずらして微かに見えた青年の瞳は日本人らしい黒色ではなく、何故か黄金の輪郭と銀色の目をしていた。
「「「「――っ!」」」」
冷たい殺気を纏っているようで見ている女性陣も思わず身構えて、ある者は身震いをして――
「はぁはぁ……な、なんて鋭い視線っ」
「「「……」」」
明らかに一人、快楽から来そうな身震いと吐息を漏らしていたが、誰も触れることはなく(ていうか触れたくないので)硬直が解けた一人が口を開いた。
「これは……もしかしてマジックバトル中の?」
最初に口を開いたのは冬夜の姉の一人。聖女のイメージがある彼女は心配そうに画面越しで義理であるが大事な弟の姿を見ていた。可愛い可愛い弟くんです。
弟は裏の世界どころか魔法の事すら知らなかった筈なのに凄い戦い振り。いや、明らかに戦い慣れており、これは凄いと言うレベルの話ではない。
なんというか暗殺者のような相手に対する躊躇が全くない人殺しのような……。
「嘘でしょ……」
「魔法の事は知っていたが、アレが本当に冬夜なのか?」
「はい、急に雰囲気が代わって私も困惑しました」
「完全に別人じゃん。キャラ崩壊もレベルじゃないだろうアレは。ヘタレの冬夜は何処行った?」
動画を見て徐々に呆然とする彼女に代わってもう一人の姉が尋ねる。雪奈が肯定するとどこか呆れたように言葉を吐いた。
「何かに目覚めたって感じだけどあの格好が原因? 服装どころか武器まで出て来てたって事は召喚系の魔法? ……確認だけどこの時点でアイツの情報は『マジックカード』に?」
「あ、はい、私に見せてくれた時点で魔法を含めて登録済みでした。いつの間にかポケットにあったと言って、それで結界内に入ってしまったようですが」
「たく、あの学園長めぇ(ボソ)……とすると拾ったカードには既に魔法が取得してあったかもしれないが、かなりレアなケースだけど拾って彼の情報を読み取った事でカードが未知な魔法を発現させたか」
実はこの騒動の黒幕を知っている冬夜の姉がブツブツと呟くが、あの魔法に関しては未だに謎が多いので、この情報交換で何か分かればよかった。
「どっちかは流石に分かりませんが、前者の可能性が高いのでは? ランクの高いカードならともかく彼が拾ったカードは一番下のGランクのカードでしたし」
「確かにその可能性も高いが、……どっちにしてもあんな魔法なんだから十分レアケースだな」
青い焔を纏ったダガーの一振り、さらにトドメとばかりの某ライダー様のようなキックが炸裂。
一帯が青い光と炎に包まれて映像はそこで終わった。
そこで雪奈が改めて集まっている面々に顔を向けた。
「別人、彼を知っている貴女方もそう思うのなら私の考えもあながち間違っていないみたいですね」
「あーなるほど、改造の理由ってこの魔法のことなんだ。だったら最初からそう言いなさいよ。紛らわしいわね」
「別にそっちも間違いでもないけど(ボソ)」
「あ、あのね……もう!」
ようやく納得いった愛華が疲れた様子で机にうつ伏せになる。厄介そうな話になったが、ひとまず安堵したと息を吐く。
もっともボソと呟いた雪奈の発言のせいで、疑いの眼差しで色々言いたくなるが、それよりも気にしないといけない事が出来た。
「とにかく、アイツが合格して学園に通うようになる前に対応を考えないとマズいじゃない!(どうして今になって魔法に目覚めるのよ!? ああああああっ時間を戻してあの時の告白からやり直せれば!!)」
「ただでさえ職員室で前例がないとイレギュラー扱いを受けているみたいだし、本格的に冬夜くんが学園に通うようになったらどうなってしまうか……(私の冬夜くんカッコいい。こんな冬夜くんもあり! この動画と写真貰えないかな!?)」
「絶対目立つし騒ぎのネタになるな。しかもアタシたちの弟だから同学年だけじゃなくてアタシら学年でも騒ぐだろう。下手したら大学部の連中もちょっかいかけて来そうだな(主にアタシが恨まれてるから)。レア魔法の存在はなるべく隠すように言っておかないとだが、何処まで隠せれるか(狙われたらアタシの所為でもあるなー。あー許せ冬夜。今度お菓子やるわ)」
映像を見て頭抱えたくなる愛華。正直何してるのあの馬鹿は!? と葛藤の末振った幼馴染に色んな意味で文句を言いたい。可能ならあの告白をやり直したいと心の中で血の涙を流していた。
女神な姉は終始心配そうに眉を寄せる。話によってはずっと隠してきた魔法の事でもう後ろめたい思いをせずに済むと本来は喜ぶべきだが、可愛い弟の置かれている状況を考えると素直に喜べなかった。あと映像の弟くんが格好いいからあとで動画と写真を貰えないか訊く事にするようだ。
もう一人の姉は面倒に眉を寄せる。この学園にいる者たちの大半(特に同年代や上の連中)が性格的にダメダメなのを理解しているので、間違いなく騒ぎになってその中心には弟がおり自分に損な役割が来るに違いないから。まぁ原因は中等部の頃から好き放題やって連中のプライドをへし折ってきた自分にあるから、心の中で哀れな弟に軽ーく謝罪した。
三人とも内心はアレだが気持ちとしては一応彼の心配をしている?
「大丈夫ですよ皆さん。お兄ちゃんは七海が守ります」
「とりあえず、その禍々しい鎌はしまって七海さん。それで何を斬るつもりなのかしら?」
冬夜のお兄ちゃん願望な後輩はいつの間にか明らかに呪われてそうな鎌を取り出して、暗いにやにやとした笑を浮かべていた。
発言者としての責任ではないが、一応先輩として暴走気味な後輩を止める雪奈。そんな本人も大概アレなキャラであるが、この場でそれにツッコミを入れる余裕がある人物はいなかった。
「ああ、あともう一つ見てほしいのがあるのですが」
そしてある事を思い出して再びタブレットを操作する雪奈。ファイルには他にも戦闘シーンが映っている物があるようでそれらをスクロールで流していくと。
「これです」
操作の手が止まる。タップすると今度は写真が画面に表示される。
写っていた赤い着物姿の女の子。冬夜と並んでいるからか身長は低めなようで、長い髪は燃えるような赤色をしている。そこまでなら普通の女の子に見えるのだが、その頭とお尻の方に猫耳と尻尾を付いていた。
「現場に突然現れたこの子。私はこの子が何か知っているようだと思うのですが、皆さんは何か心当たりは―――」
ありませんか。と言い切る前に無意識に視線が動いた。
初めて見たであろう愛華と後輩の七海はキョトンとしているのだが。
「「……」」
同じように初めて見た筈の冬夜の姉、二人の先輩は強張った表情を浮かべて、雪奈の視線を受けても固まったまま咄嗟に取り繕う事が出来なかった。
「……」
雪奈も雪奈で別の意味で強張った。
何気ない調査のつもりで出したネタが思わぬ地雷だと理解したから。
おまけ キャストトーク
雪奈「何故、本編前にこんな話を前出ししたのかしら。常識的にまず主人公を最初に出すのが定石でしょ」
愛華「なんか先に女の子たちのガールズトークを出したかったって」
雪奈「アレをガールズトークに入れて大丈夫? 一般のガールズを知らない人だったらイメージ崩壊は避けられないわよ? 他のガールズたちが困るでしょ」
愛華「平気なんじゃない? だってこの世界のガールはマトモなのはほぼゼロ。ヤバい方のガールズが多いからマトモなガールは希少価値が鰻登りだそうだから」
雪奈「その言い方だと私たちもヤバいガールズになるのだけど」
愛華「自覚、あるでしょ? 鞭やボンデージ衣装が似合う女王サマ? ヤバい性癖の人がマトモって……ハ、冗談はその悲しい胸だけにしてくれる?」
雪奈「胸は普通だし関係ないでしょ? そっちこそ首輪や犬小屋、服従ポーズに◯ン◯ンポーズがお似合いなメス犬じゃないかしら? 試しにその無駄にデカい胸を使ってポーズでも取ってみたら?」
雪奈・愛華「「……」」
雪奈・愛華「「よろしい、表へ出ろ」」
注意:こちらの世界のガールズは血の気が多い。
◯作者コメント
……以上『ヒロインたちは〇〇しかいない話』でした! もっとマシな会話にしようとしたら、ヒロイン枠っぽい二人の紹介で燃え尽きた。次回からちゃんんと本編いきますから今度ともよろしく!!
ちなみに〇〇の部分については各々の妄想にお任せします(ニヤリ)。
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