第6話 初魔法と初戦闘、混ぜてみたら……呪われました(汗)

 建物に残された冬夜が思わぬ状況に置かれている中、龍宮寺雪奈は予定通り敵の魔法使いと対峙していた。


「予想外な展開だけ彼の対応は後回しね。まずは貴方達を排除するわ」

「何さっきからブツブツ言ってんだ!」

「エリートだからって調子に乗るんじゃねぇ!」


 金属の棍棒やナイフを持ち、魔力で肉体強化して襲い掛かって来る男たちの攻撃を流すようにいなす。さらにすれ違い様に一人は魔力で強化した手刀で首の打つ。もう一人の男は同じく強化された蹴りで膝を踏み抜いた。


「うっ!?」

「あ!? 足がァアアアア!?」

「うるさいわ」

「ぐぶ!?」


 潰された膝を抑えて叫ぶ男に追撃の顎蹴りをお見舞い。これで残りは三人。


「【敵を吹き飛ばせ】―――【ファイア・ボム】!」

「『省略詠唱』が出来るのは見事だけど、魔力の操作が甘くなってるわよ? 【アイス・シールド】」


 さっきほど冬夜ごと彼女を吹き飛ばそうとした男の爆炎魔法を『詠唱破棄』の氷の盾で相殺。男が口をあんぐりして隙だらけだったので、強化した脚力で一瞬で懐に入り鳩尾へ鋭い掌底を叩き込んで戦闘不能にした。これで残り二人。

 男たちが口にした『エリート』の単語の通り、雪奈は魔法だけではなく身体的な戦闘訓練も受けている学園でも優等生。ランクはそこそこ高い程度のチンピラでは相手にならない。


「ならオレならどうだ!」

「っ!」


 的確にこちらの頭部を狙った素早い飛び蹴り。いち早く気付いて躱した雪奈は着地したところを飛び膝蹴りで顎を狙うが、男も読んでいたようで顎をガードするように両手をクロスして雪奈の膝を受け止めて見せる。その際、ストッキング越しでいやらしく膝を触られた気がして、生理的な拒絶、女としての反射的な動作でガラ空きを頭部へ拳を叩き込もうとしたが。


「こっちの相手もしてくれよお嬢ちゃん!」

「――っ!」


 叩き込む寸前で横から警棒を振るって来た男の攻撃に対応するため中断。その腕で咄嗟にガードするが、力が強くガード体勢のまま吹き飛ばされてしまう。


「くっ、【凍てつけ光の氷結!】―――【フリーズ・レイ】!」

「【我が身を守れ、土璧の盾】―――【アース・シールド】!」


 吹き飛ばされても雪奈は体勢を戻して魔法を発動させる。氷の光線が敵を氷つかそうとするが、男の一人が張った土の壁によって阻まれる。土の壁を氷付けには出来たが、その所為で視界から男たちが隠されて次の対応が遅れた。


「【打ち砕け】―――【アース・ハンマー】!」

「【轟け稲妻】―――【ライトニング】!」

「しまっ――がぁ!?」


 上から巨大な岩の塊(ハンマーの先端みたいな形状)が落ちて来たと思ったら、それを躱した先で飛んで来た雷の魔法を受けてしまう。肉体を強化していたが、雷魔法とは相性悪く完全には防ぎ切れず痺れて片膝をついてしまった。


「(ッ……この二人! ただの野良じゃない!)」


 敵のリーダーとナンバー2か、明らかに他の面々よりも強い。

 身体能力も高いが、それよりも連携が上手い。他の形だけの連携とは全然違う。この二人はコンビだ。


「他の連中と一緒にしていると後悔するぜ?」

「Aランクと戦うのも何も初めてじゃねんだよ。オレたちはな」

「面倒なのが混じっていたわけね」


 情報では全員のランクはBの筈なので、情報に偽りがなければ同じBランクでも相当な『マジックポイント』を使って自身を強化しているようだ。


「おい、お前らもさっさと起きろ! こいつは痺れてしばらくは動きも鈍い! 囲んで一気に仕留めるぞ!」

「もし回復の兆しがあればまた雷を浴びせれば良い。陽動は頼むよ兄貴」


 リーダーの男の怒声にビクッとしながらも起き上がり始める男たち。雪奈に潰されて膝や顎を抑えていた男もいたが、懐からアイテムの『回復ポーション』を出すと飲んだり振り掛ける。

 少しすると確認するように動かして問題と分かるや、ナイフや棍棒を取り出して他の男たちと一緒に雪奈に近付いて来た。


「この女、ただじゃ済まさねぇ! ポーションを使わせやがって! アレ結構高かったんだぞ!」

「ああ、ポイントだけじゃ割に合わねぇ! こうなったらその体でたっぷり返して貰うぜ!(胸は小さいけど)」

「油断したオレらが悪いってのに……下品だな」

「るっせえ! お前だって興味あるくせに真面目ぶってんじゃねよ!」

「偶には良いだろうが! ポイント採取以外だって良い思いしたいんだよ!」

「あ、オレ彼女いるから別にいいっす(あと巨乳)」

「「リーダーここに裏切り者います。処刑の許可を」」

「オレにもいるぞ?(巨乳だ)」

「自分も(巨乳)」

「「このチームで彼女いないのオレたちだけなの!?(全員巨乳? 羨ましいぞコンチクショウ!! あっち子もどう見ても小さいし、ぶっちゃけ顔しか対象にならないってのに!)」」


 巨乳巨乳巨乳巨乳、そして小さい。

 膝をついて痺れて動き辛かった雪奈だが、突然ゆっくりと起き上がるや不敵に笑い出した。


「ふ、ふふふふふ、不思議ね。腹立つ心の声が聞こえてくるわ。―――小さいとか思った男を含めて全員氷漬けのオブジェにしてあげる(全身から殺気の冷気がオーラとなって溢れ出した)」

「「「「あ、こいつ死んだわ(小さいとか思った男に同情の眼差し)」」」」

「急に不利になった!? って仲間のピンチを助けようと思わないのか!?」


 慌てている男を置いて他の男たちはリーダーに従い雪奈を包囲する。

 確かに雪奈も本気になったようで厄介にも見えるが、まだこちらにも有利な点はある。数と連携、あと雷魔法で追い詰めていけば……


「―――【我は万象にして原初を司る】」

「――え?」

「ッ誰だ!?」


 魔法の詠唱、不思議と耳に入ってくる言霊に全員が反応する。


「【それは幻想の黙示録】」


 膨大な魔力を探知する。雪奈を含めた男たちがそちらへ顔ごと視線を動かす。


「【無限の叡智そして】」


 何故か全身から光の魔力オーラを放出する瞳を閉じた壱村冬夜がいた。オーラの影響か服がボロボロになっている。

 だが、意識はハッキリしているようで、ゆっくりと呪文を唱えていくと閉じていた両目を力一杯に開いた。


「【我は求める者】」


 その瞳は銀色の瞳に黄金の輪郭となって輝いていた。


「―――【マテリアル・オーダー】」


 魔法が解き放たれた。





『本当は後悔しているのだろう? 告白したことを』


 何故か女はオレのことを知っていた。


『昔からそうだった。自分だけ蚊帳の外にいるみたいだった』


 誰にも言っていない。昔から抱いていたオレの気持ちを。


『曖昧なこの繋がりを変えたいと思った。好きだった彼女に告白してそっち側に踏み込もうとした』


 その炎のような真っ赤な瞳がオレの全てを見透かしているみたいだ。


『だが、拒絶されてお主はどうすればいいか分からなくなった』


 ……そうだ。オレはもうどうすればいいか分からなくなった。

 自意識過剰であるが、愛華に振られると全く思ってなかったからだ。


『だから逃げることにした? 違うか?』


 違わない。オレは逃げたかった。

 同情の視線よりも揶揄いの対応よりも拒絶されたショックから抜け出すために。……だけど、出て行くと告げた際の桔梗姉さんやカレン姉、七海、和馬、そして愛華との数少ない会話した際の悲しげな顔を思い出すと決心が揺れる。揺れてしまう。受験まであと少しなのにオレはまだどっちかで揺れている。


『迷っているのなら我が押してやろう。踏み込ませてやる!』


 女はオレの手を取る。暖かい手だ。燃えているようにも見えるが、全然そこまでの暑さは感じない。心地良い炎がオレを包み込んでいく。


『これは我の我儘、お主には一切の非はない。我は我の為にお主の運命を勝手に決定させる!』


 持っていたカードが熱くなる。見てなかったが、ポイントが勢いよく減り始める。


『このままジッとしていられるのか?』


 いられない。無理だ。だからオレは―――


「教えろ……お前の名前を!」

『ククククッ! 我の名は――』


 その時、既にオレの瞳は黒から銀色へと染まっていた。





 魔法を唱えた瞬間、光がオレを包み込むとオレの格好が一変した。


「これは……」


 ボロボロの夏用の服から革のような黒のジャケットを着て、胸元や肘、膝には黒の鎧のアーマーが付けられており、右の腰には黒いダガー、左の腰には黒い銃(オートマ)が装着されて、最後にサングラスが掛けられていたが、そのサングラスから声が……。


『とりあえずを用意したが、素人のお主では難しかろう? 補助の方は任せろ。そのサングラスにもサポート機能が付いているからそれに従え』

「そうかならオレでも大丈b―――このハイエナ共が(……へ?)」

「?」

「「「「「え?」」」」」


 あれ、おかしいな? オレの口から何か変な言葉が……心なしか体も言うことが利かないような?


「……散らしてやるよお前らの腐った魔法と性根を」

「「「「「すっごい口悪いよ君!?」」」」」


 本当に口悪いよ! どうなってんだこれ!? 全然声も出せないんだが!?


『あ、言い忘れたが、その装備は呪われて調整も出来てない。この初回は暴走するから注意してくれ』


 何ですって?


「――滅びろ」

「え――アギャ!?」


 て、ええええええええ!?

 何かすっごいドスのある声で銃を引き抜いたと思ったら、なんの躊躇いもなく男の一人に向かって撃ちやがった!? え、やっちゃったの!? この年でオレやっちゃったの!?


『あー、一応殺傷能力は落としてあるし、この空間の構造だと多分死なないと思うぞ?』


 そっかーそれなら安心だねーってなるかァアアアアアア!!

 心臓に悪いんだよ! 殺傷能力落とせるなら呪いを弱めといてよ!?


「【バースト・エンド】(え、ちょっと? 何これ?)」


 ダガーを取り出して唱えるとそこから青い炎が出てくる。何これ?


『その魔剣には【竜王の炎バースト・エンド】が込められている。一日に使える回数は四回だから大事に使え』


 竜王の炎って何!? ていうか体の言う事が利かないって言っているでしょうがァアアアア!!


「消し飛べ害虫(ハイエナじゃないの!?)」

「「「「ハイエナじゃないのか!?」」」」

「『ブルー・ストリーム』」


 ……フル・スイングからの強烈な一撃によって辺り一面が火の海になりました。


「……」

「(スミマセンスミマセン! 本当にごめんなさーーい!!)」


 しかも、片腕で雪奈を抱えている状態で。巻き込まなくて本当によかったけど、何で片腕抱っこ状態なの!?

 呆然とこちらを見上げている彼女には悪いが、ホント体の言うことが利かないんです!!


 キャストトーク

冬夜「はい、戦闘が始まりました(全然体の制御が利かないけどね!)」


ミヤ(大人モード)「魔力が全然ないからな。呪い耐性弱すぎだろ」


冬夜「そもそも何で呪いの武器をオレは纏ってんだよ。もっと普通のはないのか?」


ミヤ(大人モード)「初の魔法を使ってそんな普通のショボイの出したら勿体無いだろう?」


冬夜「そんなしょうもない理由でオレは呪いの武器を装着したの?」


ミヤ(大人モード)「圧勝が約束されている勝負だ。これで少しは盛り上がるだろ?」


冬夜「初対面の女性を抱えながら火の海を作っているオレの気持ちも考えて?(涙目)」

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