第5話 前回魔法バトルって言ったけど、まだだったわ
「この辺りならひとまず落ち着いて話せると思うわ。一応念を入れておくけど」
あの場所ではゆっくり話も出来ないとさらに移動したオレは目の前の黒髪女性に釣られるように壊れている建物の奥、狭い部屋へ隠れることにしたが。
「その蒔いている粉はなんだ?」
「魔法使い専用の目眩しアイテム。簡単に言うならこちらの魔力を探知されないようにする。いわゆるステルス効果が付与された粉ってところかしら? 残念ながら視界までは誤魔化せれないけど」
瓶から取り出して周囲に振りまいたあと、懐に戻してようやくオレたちの会話が始まる。
「時間もないけどまずは自己紹介から、私は龍宮寺雪奈。信じ難いかもしれないけど魔法使いをやっているわ」
「さっきの爆発やそれを防いだ氷の壁を見たら、一旦は信じるしかねぇだろう。はぁ、オレは壱村冬夜。アンタと違ってこっちはただの受験間近の中学「壱村?」生……え、どうした?」
何か考えるように眉を寄せると、あっと顔を上げた。
「思い出したわ。貴方、壱村先輩たちの弟くんね」
「……え、姉さんたちを知っているの?」
「知ってるも何も高等部の先輩よ。まぁ面識は殆どないけど小、中、高、大、関係なくあの学園で彼女たちを知らない人はいないわ」
「……そうなの?」
そ、そこまで有名なのか? まぁ桔梗姉さんは高等部から入って、いきなり風紀の副会長を勤めているらしいし、カレン姉はカレン姉で生徒会副会長に選ばれたって本人が面倒そうにボヤいていたな。……ガサツなあの人が生徒会というのも結構予想外であるが、そこについてはあまり突っ込むのはやめておこう。
「しかも高等部から在籍なのに入って早々先輩たちを…………何でもないわ」
「何があった!? 姉さんたちはいったい何をしたの!?」
いや予感がプンプンするんですが!? ていうか龍宮寺の制服に見覚えがあると思ったら、姉さんたちの制服に似てたわ!
「声が大きいわ。あと写真で自慢してたわね。子供の頃の写真も見せていたからそっちの印象が強かったわ」
「何故視線がオレの股にロックオンしてる」
「お風呂の写真、可愛かったわよ?」
イヤァアアアアアアーーー!!
リアルで叫ぶのは流石にダメだから心の中で絶叫した。
「そ、そっかぁー(もうお嫁に行けなーい!)」
「口から心の叫びが漏れているけど」
その同情の眼差しが辛い! 愛華に振られた際に慰めて来たクラスメイトたちのようだ。これでポンポン叩かれたらトラウマスイッチまでオンになりそうだから。
「は、話を戻すけど良いかしら? 時間もあまりないし」
「はい、お願いします」
そんなわけで説明を受ける事になったが、時間がないのでかなり簡略化すると彼女から受けた説明は以下の通りだ。
まずこの空間は魔法使いたち専用の戦いの場所(マジックバトルと呼ぶそうだ)。一種の結界フィールドであり、基本決着が付くまで解けないらしい。本来は両者の承諾によって展開される結界であるが、今回の相手は野良の魔法使いらしく相手に拒否権はないらしい。
ちなみにオレが入れたのは『マジックカード』を持っていたのが理由。魔法使いは例外なく魔法を使うために必要で、魔法の機関に登録していないと野良認定されて強制的に結界内に閉じ込められてしまう。
龍宮寺の目的は野良魔法使いの捕縛。カードにも記載されていた『マジックポイント』というのを狙っているそうで、勝利した時点でポイントを貰えるが、然るべき場所へ連行すればさらにポイントが付くとのこと。オレのカードにも既にポイントがあるが、普通は『マジックバトル』どころかまともに魔法経験もないのにそれはありえない筈とのこと。あと300ポイントはかなりの高い方らしいが、色々使い道あるそうだが細かいことまでは聞いていない。
最後に敵の数は五人、全員がBランクでポイントの為に悪事を働く悪質な野良魔法使い。説明は不要かもしれないが、野良とは魔法機関に未登録、もしくは脱退している集団のことだ。
この辺りで他の魔法使いを襲ったりしているという情報を元に囮捜査をして見つけたが、龍宮寺がAランクの魔法使いと知るや逃げようとしたので急いで結界内に閉じ込めた。……オレの存在に気付いたのはその後だったらしい。
「本当に申し訳ないけど決着が付くまで結界は解くわけにはいかないの。だから終わるまでここで隠れてもらえる? 終わったらゆっくり話しましょう」
「え、ちょっ」
簡単な説明を終えると彼女はオレの返答も待たずに部屋から出て行った。……オレは呆然と見送るしかなかったが。
「終わるまでって、すぐ終わるのか? というか大丈夫なのか?」
少し心配になるが、魔法なんて全然夢物語な話だし正直付けてけないのが本音だ。嘘とまでは言わないが、ここは信じて待つしかないか。
「うーん、待つのもアレだしさっきのカードでも見てみるか?」
非現実過ぎて一人になった途端、なんかテンションが下がった。いや、上がり過ぎて逆に一気に下がっているのかもしれない。
どうせ暇だしと思ってポケットからカードを取り出して見てみると―――
「なになに……マテリアル・オーダー。その下が魔法の詠唱みたいだが、こんな文を読んだら本当に発動するのか? そもそも魔力の物質化とか記録を読むとか意味が全然分からないんだが」
『どれどれ……ふむ、それほど悪くなさそうだがな。試しに使ってみるか?』
「いや悪くないも何も使い方なんて知らな――って誰だ!?」
オレしかないと思ったらいつの間にか背後に赤い髪と赤い着物姿の女(谷間が見えるくらいの爆乳!!)が立っていた! しかも、年上のお姉さんみたいで結構な美人(谷間に吸い寄せられる!?)だが、何故か頭には犬みたいな赤い耳と後ろには赤い尻尾が生えている!? ぽよぽよゆれとる!!
『ふむ、一定時間ならこの姿でも出られるようだが……』
ジーとオレの見てはぁため息を吐きやがった。何でだよ。
『肝心の器がこれではな。魔力も全然だしこれではその魔法も……いやそのポイントとやらを使えば……まぁ、せっかく出られたのだし遊んでみるのも悪くないか』
ぽよん、じゃなくて赤髪の女は勝手に納得して頷くやオレにニヤケ面で話しかけてきた。
『お主、力は欲しくないか?』
「今日は唐突な事が多いけど、怪し過ぎる誘いに頷くほど冷静さを欠いているつもりはないぞ?」
『その割に視線が我の胸部を凝視して離す気配がないが、それがお前さんの女性とのお話スタイルかな?』
「は、話くらいは聞いてやるよ」
すごいおっぱい持ちが相手だろうとオレはそう簡単に屈しませんよ?(*分かりやすいフラグです)
『何なら揉んでみるか? 代わりにその魔法を使い方を教えてやるから使ってみろ。間違いなくあの娘の助けになる筈だぞ?』
「お前の説明が本当なら考えてやるが、揉むのも誘うのはやめてくれ(おっぱいが前にあると理性にヒビが入るから!)」
『そうか……(心が読めるしお主の性癖も知っているが、ここは大人の対応でスルーするか)』
それから数分後、試すつもりでオレは初めて魔法を発動させるが、ある意味それがオレの日常終了のお知らせでもあった。
おまけ キャストトーク
冬夜「急展開過ぎないかって? もう5話目なのに魔法バトルが全然な方が異常じゃないか?」(*出だしにやる予定だったのですが、あの時は色々変なテンションだったと言い訳しときます)
雪奈「あら、いつものことじゃない? だってこの作者ストックもせずにスタートするくらいあれよ?」(*返す言葉もありません)
冬夜「前回ここで魔法戦みたいなノリだったが、次回こそはあるよな?」(*その予定とだけ言っておきますが、もう自動的に魔法バトルに行きます)
雪奈「やっと回想が終わるわね。学園ものなのにまだ私の制服しか出してないのよ?」(*な、なるべく頑張ります!)
冬夜「オレの魔法ってどんなかなぁーって思うけど、肝心の魔力とかって足りるのか? あの赤髪ビックボインがポイント見て何か言ってたが」(*はい、ある意味そこが今後の君の学園生活の代償ともなるだろうね!)
雪奈「その前に私が全部凍らせてるかもしれないけど」(*出来るかもしれないけどそれはやめてくれ!? 主人公の手番がまた遠くから!)
冬夜「一応ヒロイン枠の一人だよな? それでいいのか?」(*大丈夫です。ジャンルにも『ヒロイン?』って載せているから!)
冬夜「うん、何も大丈夫じゃないな」
次回、主人公の冬夜がやっと戦います!
◯作者コメント
スタート前にストックを貯めとけばよかったって思いました。久々だから色々と間違えましたわ。
ちょっと下ネタが多くて暴走気味。色々と見切り発車なところがあるので、この後の学園編を少しやったらお蔵入りする可能性もあります。
短編版のがそこそこ人気があったので、あちらの連載版を作ってみるのも悪くないかも。
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