第37話『深夜と失踪』

 「リクたちは あした早いでしょう? そろそろ寝た方がいいわ」とレアが促し、リクたちはサロン室から引き上げた。

「あしたからは ひとりで起きるんだぜ」

 リクが部屋に入ろうとしたら、アダムが悪戯いたずらな口調で言ってきた。

「起こしてくれないの? 」

 リクが目を大きくして聞くと、アダムは「ったりめえだ」と眉を寄せた。

「ひとりで起きるのも、従業員の役目だ」

「ええ! 」

 項垂うなだれる。と、ニックが、「どうしても起きられなかったら、俺が起こしにいくから安心しろ」と言ってくれた。

「おいおい、ニック! リクに甘すぎだぜ」

 とにかく、あしたからは自分で起きるように、とアダムは言い、ニックと連れ立って食堂車の扉へ消えた。

「ちぇ」

 リクはねて言う。

「でも、そうだよね。そろそろ自分で起きられるようにならないと」

 でも、目覚まし時計がないからなあ、と、ブツクサ 言いながら、リクは部屋の扉を閉めた。


 コンコン、コンコン、と扉を叩く音で、リクは目を覚ました。

「また遅くまで寝ちゃった⁉ 」

 飛び起きた。が、「あれ? 」目の前は真っ暗だった。枕元の窓を見る。暗い。まだ夜だ。

 聞き間違いだろうか? あれだけ早起きしなきゃと思って寝たのだ。もしかしたら、夢の中でノックされたのかもしれない。また寝ようとした、その時だった。

 コンコン、コンコン。

 ノックの音が聞こえた。

「やっぱり。夢じゃなかったんだ」

 リクはベッドの下にしまってある靴に足を通す。

「なに? あっ」

 扉を開くと、アントワーヌの姿があった。

 いつも完璧な身なりの指揮官なのだが、目の前に立つ彼は、寝巻きに ぼさぼさ の髪をしていた。

「トニ? どうしたの? 」

「アダムがいない」

「え──」

 リクは言葉を失った。

「アダムが部屋にいない。リク、知らないか? 」

「知らない」

 リクは首を横に振った。眠気など どこかに飛んで行った。

「探したの? 」

「いや」

 今度はアントワーヌが首を振った。

「いま ひとりひとりに聞いて回っている。リクも知らないとなったら──」

 アントワーヌは こぶしを口元に持って行った。あの完全無欠な指揮官が、焦っているのがわかる。

「みんなは? 」

 リクが尋ねると、アントワーヌは「アダムを探させている」と答えた。

「私も探すよ! 」

 言って、リクは部屋を飛び出した。

 アダムの行きそうな場所。リクには心当たりがあった。

 故郷を感じられる、最後の夜だ。アダムは きっと、ひとりになりたがるだろう。だとしたら あそこだ。

 リクは真っ直ぐ、1号車の先、運転室に向かった。

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