第12話『王の道と怪しい案内人』
「さあ、ここが、王様の道よ! 」
レアがリクたちを振り向いて言った。
「へえ! 」
リクはあたりを キョロキョロ 見渡す。
横幅の広い通りには、花壇が等間隔で置かれている。
花壇には雪が降り積もり、花の気配は完全に消えてしまっている。
「もっと暖かい季節に来たかったね」
ゾーイが言った。
すると。
「そうだね。ここはカール・ヨハン通りって言って、暖かい季節に来ると、きょうみたいな平日でも路上ライブとか、芸人さんが芸をやってくれてたりするよ」
答える声がした。
「え? 」
リクたちが後ろを向くと、そこには栗色の髪の毛の、天使のように美しい男の子が立っていた。リクと同い年くらいであろうか、男の子は、リクたちに笑い掛けると、「こんにちは」と挨拶をした。
「旅の人でしょ? こんにちは。ボクの名前はカレル! 」
「こ、こんにちは──」
リクが恐る恐る挨拶を返す。と、カレルは首を傾げた。
「“こんにちは? ”君、もしかして日本人? 」
「あ! 」
リクは自らの耳に触れた。
そうだ。リクたちは翻訳機を つけているのだ。
リクたちの つけている翻訳機は、『多言語同時翻訳発声システム』というもので、話し手の発した言語を同時に複数の言語に翻訳する。それも、話し手の声や喋り方の特徴まで、そのまま聞き手に届ける機械だ。いまリクたちが つけているのは、外出する際に耳につける補聴器タイプで、汽車の天井に張りついているのが、ボタン電池のような形状をしている。この翻訳機が、世界中から集まった従業員たちを繋いでいるのだ。
「ごめんね! つい! 」
リクは日本語で謝って、「あ! 」口を押えた。
「ど、どうしよう。ソ、ソーリー? 」
「ソーリー? うん! 英語なら分かるよ! 」
カレルは笑顔で頷いた。
カレルはニックの耳元を指差すと、「お兄さんたちの耳に ついてるの、翻訳機でしょ? 」と言った。
「ボクの言葉は理解できてるよね? ボクも英語ならできるよ! 英語しゃべれる人はいる? 」
ゾーイと、少し遅れてアダムが手をあげた。「まあ、日常会話くらいなら」
「ボクも そうだよ」
少年は可愛い笑顔をアダムに向けた。
「で」
と、ゾーイ。
「カレル君は どうして私たちに声を掛けたの? 」
「あ、そうだった」
カレルは手を打ち鳴らした。
「怪しい者じゃないよ! ボクは13歳で、ここの近くに住んでるんだ。いまは冬休み中でね。家で ゴロゴロ するだけなのも暇で、勝手に慈善活動をしてるんだ」
「慈善活動? 」
リクが繰り返して、「あ、また」と口を閉じた。
「慈善活動って何? 」
ゾーイがリクの質問を通訳してくれた。
「観光に来てくれた お客さんを案内してあげるんだ」
カレルが答えた。
「おお! 凄い! 」
リクが拍手をした。
「それで、私たちを案内しようと? 」
「そうだよ」
カレルが笑顔のまま頷いた。
「ボクの観光案内はいかが? 」
「あー。ちょっと待ってくれ」
アダムは苦笑いで言うと、「え? なんで? お願いしようよ」と手を叩くリクを引っ張って、カレルに背中を向けた。
「どうする? 」
と、アダム。
「どうするって。明らかに怪しいわよ」
と、レア。
「そうだよね」
と、ゾーイ。
「なんで? 慈善活動って、カレルが言ってたじゃん」
ひとり理解できないリクに、アダムが「馬鹿、リク」と
「ちょっとアダム! 今度リクに そんな言葉言ったらただじゃおかないわよ」
レアがアダムを咎める。
「どういうこと? 」
リクがニックを向いて尋ねた。すると、身を屈めた大男は「いいか、リク」と話し はじめた。
「この誘い、もしかしたら詐欺かもしれないんだ。慈善活動と言って、本当に観光案内はしてくれるだろう。しかし、その後、高額な金額を請求する。俺たちは既に対価を受け取っているから、断れないという寸法だ」
「そうは見えないけどなあ」
リクはカレルを一瞬 振り向いて言った。
「観光案内してもらおうよ。もし、ニックの言う通り詐欺で、高額な金額を請求されたら、断ればいいじゃん」
「断れねえんだよ」
アダムが コソコソ 声で言った。
「どうして? 」
リクが食らいつく。と、レアが「あのね、リク」と話を引き継いだ。
「断ったとしても、駄目なの。怖い人たちが出てきて、取り囲まれちゃう。もちろん、逃げようとしたって無駄よ。すぐ捕まって、もっと怖い目に遭うんだから」
「でも子供だよ。ニックもいるし、大丈夫だよ」
「おいおい」
ニックが困ったような笑顔を見せた。
「いくら俺でも、大人数を相手になんて無理だ」
「でも──」
どうしても
「世界は日本と違って危ないところなの。例え相手が子供だとしても、疑ってかからなきゃ」
「そうなんだ……」
リクは眉を弧の字に曲げた。
「じゃあ、残念だけど──断る? 」
「ねえ」
カレルの声がした。
「なんて言ってるかは分からないけど、ボクは そこいらにいる怪しい人間じゃないよ! こう言うと怪しさを増しちゃうかもしれないけど」
カレルは舌を出す。
「本当に ただの慈善活動。天使様にでも神様にでも誓うよ! だから観光案内、任せて! 」
「そこまで言うなら──」
と、ゾーイ。
「お願いしようか」
アダムが ぎこちなく言った。
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