第10話『凍える季節とスマートフォン』
昼食を食べ終え、リク、アダム、ニックは2号車の扉から外に出ることにした。
「寒いでしょう、これも着て行きなさい」
もうデップリ着ぶくれしているリクに、レアは さらにコートを着せようとした。
「もう暑いくらいだよ」
言うリクに、レアは大真面目に、「だって、外は あんなに雪が積もっているのよ! 」と悲鳴にも似た声をあげた。
「もう これだけ着たら大丈夫だよ、ありがとう」
マフラーを ぐるぐる と巻きつけられたリクは、レアに くぐもった感謝を述べた。
「気をつけるのよ」
レアは最後にリクに 手袋をつけさせた。それからアダムとニックを交互に
「あー、あー、わかったよ」
アダムは面倒臭そうにレアに返事すると、後ろ手に外へ続く扉を開いた。
「じゃ、行って来るぜ」
そら、行くぞ、ニック、リクとアダムは声を掛けると、雪の積もる大地へ足を降ろした。
サクッ という雪の感触に、リクは故郷のことを思い出した。リクの故郷も、冬になれば雪が しんしん と降り積もる場所だった。
「気をつけて歩くようにな」
ニックがリクに振り返って言った。
「大丈夫、こう見えても雪国育ちなんだよ! 」
レアのおかげてすっかり丸いフォルムになってしまったリクは、精一杯胸を張って言った。
「それは心強いな」
ニックは笑うと、「それじゃあ、行くか」とアダムに続いて歩き出した。
少し歩くと、林の向こうに人工的に作られた道が見えた。
アダムは歩みを止めた。ニックとリクも玉突きに足を止める。
道の向こうに、湖が広がっているのが見える。
「誰か通るかな? 」
問うリクに、アダムは しっ と人差し指を唇に当てた。そして、その指で右側を ちょいちょい とさした。
アダムの指差すほうを見ると、ふたつの人影が歩いてくるのが見えた。
リクたちはなるべく音を立てないように ゆっくり後ずさると、木の陰に隠れた。
人影が近付いてくるにつれ、会話も鮮明に聞こえるようになった。
耳につけてきた翻訳機器のおかげで、異言語でもしっかり聞き取れる。
「でね、エミリーが言ったの、そんな男やめなさいって」
「私もエミリーに賛成。誠意のない男なんていらないもの」
「そうよね、私もそう思った。だから──」
だんだん、だんだん、大きくなっていく人影を、リクたち3人は息を潜めながら目に捕えようとする。
人影──彼女たちは、今のリクと似たり寄ったりの服装をしていた。あたたかそうな分厚いニットの上にコートを羽織り、下はジーンズ。脚にはブーツを履いている。
「いつ来ても綺麗ねえ」
と、ふたりは立ち止まると、鞄からスマートフォンを取り出し、写真を撮った。
「あっ」
スマートフォンだ。だとしたなら、この場所が、リクが汽車に乗る前に暮らしていた時代と同じくらいであることを示していた。
リクたちは ふたつの人影が通り過ぎるのを待って、また集合した。
「変な格好してたな」
アダムが言った。
「着てる服は俺の時代と さほど変わらなかったが、ふたりが手に持っていた金属の板が何かまでは分からなかったな」
と、ニック。
「あれはスマートフォンって言う携帯なんだよ」
リクが解説すると、ふたりは「何だ、そりゃ」と首を傾げた。
「とにかく、いま私たちがどの時代にいるか分かった。早く汽車に戻ろう」
元気よく回れ右するリクを、今度はニック、アダムが追いかける形になって、汽車へ帰ることとなった。
汽車への
「リク! 大丈夫だったの? 」
と駆け寄ってきたのは もちろんレアで、金色の髪の毛を丁寧に巻きあげた彼女は、リクの姿を見るや否や抱きついてきた。
「わ、レア! 大丈夫だよ」
たった数分 外にいただけだし、とリクは苦笑いを浮かべた。
「ところで、ずいぶん早かったが、何か分かったのか? 」
アントワーヌが みんなの後ろから尋ねてきた。
レアを引き剥がしたリクは、はっとして、「あ、そうそう」と従業員たちに向き直った。
「みんないるし、ちょうどいいや。あのね、外で──」
リクは、さきほど見た女性の ふたり組のことを従業員たちに話した。
スマートフォンの説明を聞いた従業員たちの反応は まちまちだ。
「なるほど、スマートフォンを使ってたんだね。なら、時代は僕が暮らしてた時と そう変わらない訳だ」というソジュンがいれば、「すま……と? ふぉん? それは何? 何かの おまじない? 」と首を傾げるコリンもいた。
「スマートフォンっていう携帯ってことね。どういうものなのかは分からないけれど、リクたちがいた時代だもの。危険じゃないってことは分かったわ」
レアは言って、手を打ち鳴らした。
「それじゃあ、食料調達に行きましょうよ! 」
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