第28話 日々募る強さへの執着
ラグドとクレイはリハビリのためにしばらく街に残るそうだ。
基本的に痛みは傷は薬で治るけど、その際、もし骨などが損傷してれば、わずかにズレた位置に戻ってしまう。
人間の骨はわずかにずれただけでも大きくバランスに作用する。
無理やり歩くとさらに悪化する可能性もあるし、ひどい傷はゆっくり療養するしかないのだ。
私の方は、ドラゴンとの戦いで負った傷なんて大したことないので、祝賀会があった次の日には特訓に復帰した。
ということで、リーシュにはラグドたちのもとへ遊びに行かせて、私は絶賛修行中だ。
地道な作業でも、日々の積み重ねが想像以上に成果を出すことがある。
よくよく考えたら、このままリーシュに助けてもらい続ければ荒稼ぎできるのではないかと思わなくもないが、そうすることもできない事情がある。
というのもこの世界、何の因果か、私が転生したころから急速に国際関係が混濁してきているらしい。
これはフィナさんに聞いた話だが、ここ数十年、この世界では魔界から流れてくる魔力の対処に負われていたらしい。
魔力が多く流れると魔物の行動が活発になる。そのため、少しでも大気に存在する魔力を減らそうという試みが全世界で広まっていたらしい。
その結果、人間の国も獣人の国も亜人の国もエルフの国もみな協力して友好な関係だった。
分かりやすく言うなら、宇宙人が攻めてきたら仲の悪い国も協力して対抗するだろう、みたいな話だ。
一つの敵に対して一時的に同盟を結ぶことは歴史上でも多く見られてきたこと。
んで、つい最近、その魔力量が当初目標としていた量まで減らすことに成功したとのこと。
これで魔力の量も減って、晴れてみんな仲良し。
とはならないんだなこれが。
目標を達成したということは、もう協力する必要がなくなったということ。
敵がいなくなれば、今度は先ほどまで味方だったものを敵視するようになる。社会というのは常に満たされない場所なのだから、自然とそうなるものなのだ。
その代表として、聖剣連合という組織がある。
こいつらは、聖剣というめちゃくちゃ強い武器を持っていて、闘いにおいて圧倒的な強さを誇る存在、なのだが、非常に差別的な存在で、純人間以外の種族を蔑んでいるらしい。
魔力問題があったころは渋々世界的に協力していたが、その必要がなくなった今、反動のように聖剣連合は異種族の排除を始めた。
しかも、聖剣使いは人間の英雄であるため、純人間の大衆は彼らの行動に賛同して差別を始めた。
この国ではまだマシな方らしいが、ほかの人間の国ではすでに異種族がほとんど追い出されたらしい。
そんな横暴なことをやっているせいで、純人間の国とそれ以外の国では緊張状態が強まっていて、今に戦争が起こるなんて言われている。
話を戻すが、戦争が起こってからでは自分の身を守ってくれる人間などいない。
リーシュは守ってくれるかもしれないが、すべて任せてばかりで落ち着いていられる私ではない。
だから、自分の身を守るために強くならないといけない。
自分だけじゃない。
今はリーシュもいる。
そりゃあリーシュは私なんかと比べ物にならないくらい強いし、守ってもらわなくても全然問題ないとは思う。
でも、私にとっての彼女はもう大切な人だ。隣にいてくれるのが嬉しいし、できることならずっと一緒にいたい。
一度くらい、リーシュを守れるような緊急事態が起こることもないとは限らないし、そのために常に自分を磨くことはそんなにおかしくはないはずだ。
「よし……。もっかい。」
自分に再度喝を入れると、手にこめる魔力を一気に集中させた。
♦︎♦︎♦︎
数日後。
治療を完了させたラグドとクレイが王都に戻るので、私たちは街の外まで見送りに行くところだった。
「そういえば、王都ってどんなとこなの?」
この世界の都市をここしか知らない私としては、この国の首都の場所と雰囲気くらいは知っておきたいものだ。
つーかこの国は『フォーリトーレム人民帝国』なのに、『王都』ってどういうことなんだ?『帝都』の方が正しい気がするが。まあいいけど。
「ああ。王都はここを南にずっと言ったところにあるロゼリカという城塞都市だ。真ん中に建つ王城を中心として、四角形状の城壁に囲まれてる。規模的には……そうだな、この街の10倍くらいかな。」
10倍!?
この街だってそこそこの大きさだっていうのに。
ていうか、土地が余りまくっているからかもしれないけど、都心部の方が大きいんだ。
あっちの世界だと、っていうか日本だと、平地がほとんど開拓されてるから、都心部に行くほど狭くなっていってたけど。
まあ歴史を辿れば、ローマ帝国のコンスタンティノープル、漢の長安など、大きな都市が主要都市として機能している場合が多いから、今の東京とかの方が異質なんだろうな。
「王都には騎士団本部もあるし、魔術団の本署もある。当然女王様もそこにいるから、政治的にも軍需的にもこの国の中心地だ。」
へぇ。
都会かぁ。ちょっと見てみたいかも。
いつかロゼリカ行ける機会があるといいんだけど。
「……あと、この街よりは獣人の扱いも良いから、そういう面でもそこまで心配しなくていい。この街の反感意識は少々過剰すぎる。可能なら、二人にはすぐにでも王都に来て欲しいくらいだ。」
あ、なんか気を使わせちゃってるな。
でも、ここよりも差別がないのは結構私としてはプラスポイントだ。
この街がヴィッツテリア帝国の移民や密売人に苦しめられているせいなのも排除的な姿勢が多い原因なのかもしれないし、移住地を王都に移すのはそれなりにメリットが多いかもしれない。
「ありがと。参考にしておくよ。」
まあとはいえここでやりたいこともまだまだある。
先のことは後で考えよう。
「わたしも王都、ちょっときになるなぁ。行ったことないし。」
ラグドの話を聞いて、リーシュもちょっと乗り気なようだ。
「リーシュも行ったことないんだ?」
「っていうか、わたしここら辺から外に出たことないし。」
「何千年も生きてるのに?」
うちのおばあちゃんも人生で一度も市内から出たことないって言ってたなそういえば。
長いこと生きているからといって、わざわざ用もなければ外には行かないものなのか。
「うん。前に人間に化けたときは結局街ごと滅ぼしちゃったし、あんまり関わらない方がいいかなって思って。」
「……懸命な選択だね。」
……まあそういう理由もあるよね。
関わらないという選択肢を取れるだけ賢いほう。
「じゃあ、俺たちはここで。機会があったらまた会えるだろ。今度またここら辺の任務があるかもしれないし。」
「うん、そうだね。今度また一緒に飲もう。」
今の二人がどれくらい強いのかわからないけど、きっと国を守る立派な聖騎士になってくれるだろう。
私も負けてられないな。
せっかく友達になれたのに離れ離れになるのは寂しいけど、一応郵便もあるし、お互いの住所を交換しあったから連絡だってできる。
出会いもあれば当然別れもあるのだ。
「じゃあね、二人とも。」
「ああ。」
「はい。」
青空をバックにまっすぐに歩いていくラグドとクレアを眺めつつ、こういうのが異世界転生のいいとこだな、なんて思ってみたりもした。
剣士に魔法に草原に青空、いかにもな異世界だ。最後の二つはあっちの世界にもあるけど、なんか清々しさ的なものが気分的に違う気がする。あくまで気分的に。
「リーシュ、今からちょっとだけ魔物の討伐に行かない?」
「それなら、ラムルーク森林に行きたい!」
おお、元気いいな。
リーシュはラグドたちと仲良くしてたから、別れを悲しむんじゃないかと思ったけど、案外そうでもなかった。
リーシュくらい長く生きてたら、別れも出会いもたくさんあっただろうしそんなもんか。
「そういえばこの前行きそびれちゃったもんね。」
もしも私が死んだらリーシュはどんな反応をするだろうか。
そんなことを考えながら私はラムルーク森林に向かってる駆け出すリーシュの背中を追った。
この時の何となく感傷的になっていた私は思いもしなかった。
まさかこの後思いもよらない形で二人と再会することになるとは。
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