第7話 強い冒険者になるために

♦︎♦︎♦︎



「いらっしゃいませ!初めての方ですよね?冒険者登録ですか?」

「あ、ハイ。」

「わたし、冒険者同会のフィナです!よろしくお願いします!」

「……こんにちは、レイナです。」


 市役所のお姉さんと比べると随分陽気な声が冒険者同会の建物中に響き渡る。

 赤髪ショートヘアの20歳くらいの女の人が元気よく冒険者同会のカウンターで私の対応をしてくれていた。

 めちゃくちゃ胸の部分が露出されている服装で、女の私でも不可抗力的に目線が釣られる。


「じゃあ、ここに名前と個人情報をお願いします。あ、あとお客様は獣人ですので、特別市民許可証の提示をお願いします。」

「はい。」


 やはり獣人には特別な処置が必要なんだな、と実感しつつも紙にペンを走らせる手は止めない。


 それはそうとして、さっき諦めたはずなのに、どうして私が冒険者同会にいるのかという話をしよう。


 まあ大した事情でもない。

 冒険者は基本自由な職業らしいので、山に戻る前に一度くらいどんなものか確かめてみようと思っただけだ。

 言うならば、将来のために資格試験を受けるようなものだ。危険な仕事だったらすぐに逃げ帰ればいいし、私でもできそうな仕事なら少しずつ取り組んでいくという選択肢も取れる。


 なにより、魔法というものをしっかりと覚えておけば、仮に山に戻るとしても役に立つと考えたのだ。

 山には危険な生き物もいるだろうし、魔力が少なくても戦える力を持っておくに越したことはない。(魔法を使って生き物を殺すという行為が精神的に可能かは置いておくとして。)


「ありがとうございます!では冒険者登録に入っていきますが……まずは魔力検査をしましょうか。」

「え。魔力の検査するんですか……?」


 魔力が少ないと思われる私に良い結果が出るとは思えない。

 張り紙には魔力のテストはないと書いてあったはずなんだが。


「ええ。魔力の総量と魔素種を調べます。あ、別に結果によって登録ができなくなるというわけではないので安心してくださいね。」

「まそしゅ?」


 またまた聞いたことがない単語が出てきた。

 魔法は魔力によって決まるんじゃなかったっけ。


「……お客様、魔法に関してはあまり詳しくない感じだったりします?もしよろしければ、魔素種や魔法について説明させていただきますけど。」

「あ、お願いします。」


 獣人が魔法が苦手なことを揶揄しているのか、若干馬鹿にしたような言い方をした赤髪の受付さんだったが、無知な自分が悪いと割り切るのが良さそうだ。

 上司のイビリに比べれば全然序の口よ。


「ふむふむ。じゃあ魔法の原理について説明しますね。まず、魔法は魔力によって為される能力であることは知っていますよね?」

「ああ、魔力は誰でも持っているエネルギーで、魔法は魔力を使って実体化するものなんですよね。」


 昨日の夜の大男によると、魔法は主に戦闘手段として使われるものらしい。

 だからこそ私には関係がないと踏んだわけだけど、最終的に冒険者になる方向に行くなら、昨日ちゃんと魔法についても教えてもらうべきだったな。


「はい。でも、魔法を構成するのは魔力だけではないんです。魔法そのものを作り出すのは魔力ですけど、どんな魔法﹅﹅﹅﹅﹅を作り出すかに関係しているのが魔素種なんです。」

「……使える魔法の種類を決めるのが魔素種?」


 某ゲームの『タイプ』みたいな概念か。


「そうですそうです。魔素種は生まれつき決まっているもので、生涯それが変わることはありません。例えば、わたしは炎魔素を保持しているので、こんなふうに炎系統の魔法を使えます。」


 フィナさんがにこやかにそう言うと、彼女の右の手の上に、青く燃える火の玉が出現した。


「うわっ。」


 なんの前触れもなく目の前に現れた小さな炎に、思わず体を逸らす。

 火の玉はどこかに飛んで行くこともなく、フィナさんの手のひらの上でゆらゆらと光を纏っていた。


「これが魔法……。」


 そういう世界だということはなんとなく理解しかけていたけど、それでも目の前に何の出力もなく現れた炎に驚かざるを得ない。

 元の世界観で言うなら科学的ではない。

 人間の体から意思を持って炎を出せるなんて、人体学上ありえない話だ。発火現象がないわけじゃないけど、少なくともやろうと思ってはできない。


「自分が持っている魔素種によってどんな魔法を使えるかが決まる……。私は獣人ですけど、獣人でも魔素種を持っているんですか?」

「ええ。魔素種はすべての生き物が持っているものですからね。……ただ、自分の魔素種が何であるか理解していないとその魔法は使えないので、知性を持たない野生動物は基本的に魔法は使えません。強いやつだと本能的に体が理解して魔法を発動できるのもいますけど。」

「怖いやつもいるんですね……。」


 森が優しい世界ではない可能性も急浮上してきたな。

 

 ……ともかく、魔法を使うにはなんにせよ私自身の魔素種が何なのかを知らないといけないわけか。

 

 私はどんな魔素を持っているのだろうか。


「魔素種って炎以外だと何があるんですか?」

「えーと、魔素種は全部で12個あります。」


 フィナさんはすぐ近くにあった戸棚から、本を取り出して開いた。


「あーそうだ。ごほんっ。エンスイライレイブツヒョウアンドウフウゲンセイ、この12種類が基本的な魔素です。」


 あんまり覚えていなかったらしい。

 私が言うのもなんだけど、これって結構常識的なことなんじゃないのかなぁ。冒険者同会の受付なら知っていて当然なような気もするが………。

 まあそれはそれとして、炎とか水とかは分かるけど、霊とか動とか聞いただけじゃ分からないものもあるらしい。そこら辺もあとでちゃんと聞いておかないと。


「どの魔素種が強いとかあるんですか?」

「いえ、それは使い方とか組み合わせ方によるとしか……」

「……?組み合わせ方?」


 使い方は分かるけど、組み合わせ方って何だ?


 フィナさんは私の疑問符の意図が分からなかったのか、少しぽかんとした表情を見せたが、すぐに思い出したかのようにポンと手を合わせた。


「ああ。そういえばまだ言ってませんでしたよね。当人が持っている魔素種って、必ずしも一つとは限らないんですよ。」

「……複数の魔素種を持っている人もいるんですか?」

「はい。個人差があって、最低一種類、最高で三種類の魔素種を持っている人がいるんです。もちろん、一つしか持っていない人より三つ持っている人の方が、魔法戦闘においては有利だったりもします。」


 魔素を複数持っている人は強くてそうじゃない人は強くない、魔素種も結局は生まれつきで決まるものらしいから、魔法というものは全体的に才能がものを言うらしい。


「複数の魔素種を持っている人は、それらを組み合わせて魔法を使ったりするんですよ。例えば、風と雷の魔法を合わせて嵐のような竜巻を作ったり、土と炎を合わせて火山のような地面を作り出したり、と。」

「なるほど……。けっこう魔素種の種類と数も大切なんですね。」

「ええ。……でも、一種類の魔素種を極めて、それでいて有名な魔法使いもいますし、そこまで必須というようなことでもないですよ。………ってことで!ちゃっちゃと魔力検査を済ませちゃいましょう。レイナさんがどんな魔素種を持っているのか、私も気になります!」


 あまり良い予感はしなかったが、ぐいぐいと背中を押してくるフィナさんに導かれて結局魔力の検査をすることになった。

 

 でも、自分がどんな魔法を使えるようになるのかはちょっと気になってたりするかも。




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各魔素種紹介


炎魔素  火を生成、放出することができる


水魔素  水を生成、放出することができる


雷魔素  雷を生成、放出することができる


霊魔素  精霊を召喚することができる


物魔素  身体能力を向上させられる


氷魔素  氷を生成、放出することができる


土魔素  土を生成、放出することができる


闇魔素  腐食する悪意を生成、放出できる


動魔素  魔法や魔具を自由に動かせる


風魔素  風を生成、放出することができる


幻魔素  幻影を生成し、精神を破壊できる


生魔素  植物や動物に生命を宿らせられる

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