第5話 魔力ってなんだろう
大男の仕事は夜中の街の周辺の警備だそうで、私は男の仕事についていって、街の周辺を歩きながら会話を続ける。
「前提としてだが、お前は魔力について何も知らないんだよな?」
「はい。」
「なら聞くが、お前はどうやってここまで歩いてきたんだ?」
「?」
そんなの普通に歩いてきたに決まってるだろう。
「自分の足で歩いてきました。」
「そりゃ分かるけどよ…………なんで足を動かせるんだって話だよ。」
「うーん。細胞が筋肉を動かしているから?」
「お前って獣人のくせに案外理論派だな………。」
案外も何も、そうとしか言えないだろ。
今の一連の話が魔力という言葉につながるのだろうか
「だがな、その細胞はなんで働けるんだってことだろう。」
「それは赤血球が」
「まてまて。これ以上お前の話を聞いてるとこっちが分かんなくなる。俺たちは医者じゃないんだぞ。」
「じゃあなんでこんな会話をしてるんですか。」
「そりゃお前にわかりやすく説明するためにだな…………いやもういいや。単刀直入に言おう。魔力っつうのは人間の体を動かすエネルギーみたいなものだ。」
「エネルギー………?」
「ああ。お前が今こうやって歩いているのも走ったりできるのも、全部魔力が持つ力を利用しているからだ。」
どういう理屈なんだ?
魔力は人間の根源みたいなことって意味なのか?
だとすると、遺伝子のような立ち位置のものであったり、細胞のような役割を果たすものなのだろうか。
「体を動かすことができるのが魔力の力のおかげってことは、魔力は体力みたいなものってことなんですか?」
「まあ体力にも直結してはいる。例えば物事に集中している間は魔力を多く利用しているということだから、体力の減りは早いし長くは続かない。」
「………なるほど。つまり、魔力は集中力や体力、明晰力などと同等の役割能力を持つということですか。」
「同等というか、それらの元となっているのが魔力だな。」
魔力というのは本人のやる気とか身体的な能力に関わる力で、劣っているとそれだけ生活や仕事にも支障が出るということか。
まだ分からないことだらけではあるが、とにかく魔力の量が重要ってことは理解した。
「それが純粋な人間には多くてそうでない人には少ない。だから獣人は役に立たないと思われがちってことなんですね?」
「まあな。正確には純粋な人間が住む場所では、だ。獣人は五感や単純な身体能力が優れているから、本来はそれをうまく利用できる環境で生きるのが良い。だが、お前みたいな人間環境に入り込もうとしている移民は、この町では嫌でも魔力量を見られて蔑まれやすい。」
「なるほど…………。」
つまり私は種族的にこの街で生きるのは向いていないということだ。
別に、たまたま見つけた集落がここだっただけなのだから、この街にこだわる理由も特にない。獣人の姿で転生してきた以上、獣人が住む世界にいくのが最適なのかもしれない。
が、生きていけるならそれに越したことはないし、獣人が住んでいる場所がここからどのくらい離れているか分からない以上、もう少し様子を見ても良さそうだ。
「でも、魔力ってそんなに大切なものなんですか?そりゃあエネルギーは多いほど良いでしょうけど。」
「ああ。魔力が重要視されている理由は実は他にもある。というかこっちの方が要因としてはデカいかもしれないな。」
「というと?」
「お前は魔力の存在すら知らなかったみたいだから最初から説明するが、魔力っつうのは直接戦闘力に関わるもんだ。魔力総量が多いやつは基本的に強い。強いやつは街の代表となり、より強固な街を作り上げる。つまり魔力は軍事的な役割を果たせるんだ。」
戦闘力……………つまり魔力が高い人が多い国や地域は、軍備がしっかりしていると言ってもいいということか。
この世界で戦が頻繁に起こったりしているかどうかは分からないが、種族が別れたりしている以上、ある程度の争いは起こるだろう。その時に魔力をたくさん持っている人こそが生き残れるということなのだろうか。どこの世界も世知辛い世の中だな。
「でも魔力って元気とか体力の源みたいな話だったじゃないですか。魔力で戦闘能力云々言うなら、獣人の身体能力だって戦闘に役に立つんじゃないですか?」
実際、今のケモ耳状態の私はかなり身体能力が高い。人間だったら世界記録は取れそうな距離もピョンと跳べる。
いや自分が強いとか思いたいわけではないけど、魔力がそんなに戦闘力に関与するかに関してはいささか納得し難い部分がある。
「お前、ホントに何も知らないんだなぁ。まあ魔力を
「どういう意味です?」
「魔力は魔法に転換できる。そして魔力が多いほど魔法は凄まじい威力を誇るものになる。」
………魔法?
魔法!
なんと。この世界には魔法が存在しているのか。
魔法って火とか水とか出したらできるやつだよね?空飛んだりもできるのかな。
私もそういうのちょっとだけやってみたい。
「魔力そのものだけならただの身体的な内面にしか効果を成さないが、それを外部に出すことで魔法になるわけだな。」
いつの間にか大学の教師っぽい感じで大男は説明する。風貌にあってないぞ。
先ほどから魔力の話題が膨らむあたり、魔法や魔力はこの世界で相当大きな力の印として用いられているらしい。
仮に魔力をガソリンだとすると、肉体がエンジン、そして魔力を制御することで実際に機械が動き出す、その機械の運動が魔法といった感じかな?
「魔力無しでは戦えないんですか?」
「そうとも限らないが…………魔力利用ありと魔力利用なしでは、天と地ほどの戦力差がある。魔力なしでは魔法を防ぐ手段を持てないから、一方的にやられるだけだ。」
「ふーん。」
少し、魔法という楽しそうな言葉に釣られて上昇気味の私だったが、ここでとあることに気がついた。
魔力があるほうが強いってことは分かったし、魔法というものに興味がないわけではない。
でも、実際のところ私には関係のない話なような気がしてきたのだ。
だって別に兵士になりたい訳じゃないし。
私は平和かつ裕福に暮らせればそれでいいのだ。
問題なのはその平和と裕福をどうやったら手に入れられるかということだが、それはこの街で生活を探っていくうちに見つければいい。
獣人は迫害されているとは言っても、この男の発言からして私のような獣人はこの街にそれなりにいるようだし、いきなり殴られたりすることはないだろう。たぶん。
「あの、ありがとうございました。なんとかこの街で仕事探してみます。」
もっと知りたいことはあるけど、さすがに求人までやらせるわけにはいかないので、ぺこりと頭を下げてお礼を言い、その場を離れることにする。
「あ?まだ魔法についていろいろ言ってないことがあるんだが、いいのか?」
「はい。普通に生活していたら魔法は使わないんでしょう?」
「まあ、騎士や魔術師、冒険者になるなら話は別だが、それ以外は使うことはあまりないな。」
「戦うのは苦手なので、できるだけ安全に生活できるように努力することにします。いろいろと教えてくださってありがとうございました。」
冒険者、騎士、魔術師なんて職業があるあたり、この世界は前の世界と比べるとかなり安全性が低いらしい。
慣れていたらできたのかもしれないが、私は虫だってまともに殺せないのだ。
戦闘を仕事にするなんて絶対無理。
だから魔法とやらも必要ない。
私は大男にお礼を言うと、街灯が灯る街中へと足を踏み入れていった。
まずは役所に行って移民申請。
それから仕事を探さないと。
男の発言や街並みを見るに、お金の概念は当然あるだろうし、無一文なわたしはとにかく働かないと始まらない。
いきなりの転生、未知の世界、不安大きめの意思を抱えながらも、はじめの一歩を繰り出した。
にしてもせっかく死ねたのにまた仕事とはね。しかも環境は前世界よりもきついかもしれないときた。
なんか転生特典みたいなのがあるって言ってませんでしたっけ、天使様。
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