第4話 学長室にて

【学園都市グラシアにて】


――世界標準歴1212年3月下旬――


 南北を三日月状に湾曲させたキティーダ大陸の極東。トーステル王国領東岸の街シェフターレの海岸線から少し離れ内陸部へと差し掛かろうとする場所に、学園都市グラシアは所在する。


 上空から俯瞰すると、その特徴的な都市設計の全貌が確認できる。

 都市の中央にそびえる巨塔を中心に、都市を四分割するように放射状に延びる道々。その隙間を埋めるように、白色を基調とした石造りの建造物が規律ある列を成している。

 中央塔から見た東部区画、円形状の闘技場が目を惹くのは願術科の校舎群。広大な庭園が区画に整備されている南部区画が芸術科。巨大な工房施設がある西部区画に位置するのは技術科。北部に位置するのは学術科。蔵書庫兼図書館の他、実験棟等の施設を備えている。


 都市全体が学園を中心とした円状に形成されており、街は大陸全土において最も近代化が進んでいた。送電線に、路面電車。馬車だけでなく内燃機関を搭載した少人数用の自動車など。都市は新たに生まれた技術をすぐさま反映すべく、現在でも所々工事が行われている。


 近代化の進んだ街並みであろうとも、人々の営みは変わりない。店舗を持つ店の他、大通りに面する場所には屋台や出店が並んでいる。都市には道に沿うように整備された河川が流れており、港からの漁船や商船が往来し賑やかだ。


 北方のディザトリーより飛行によって帰還の途中だったエディゼートらは、グラシアを目前にすると何体もの飛龍を上空に見ることとなった。

 主に国内外へ向けた郵便物を運搬する者がほとんどであった。だが一体だけ、拡声器を首元に搭載した赤龍が都市全体を旋回しており、


「――グラシアの皆様、おはようございます。現在時刻は九時を回りました。本日三月二十日水曜日、天気は一日を通して晴れ。日中の予測最高気温は二十二度、また予測最低気温は十四度となっております。魔力濃度は先週末より増加し、五十六パーセント。過ごしやすい一日ですが、季節の変わり目ですので体調管理をしっかりとしましょう。以上、翼龍新聞でした」


 グラシア毎朝恒例の気象情報を聞くと、エディゼートらはグラシアに帰ってきたのだと改めて実感することとなった。

 生活区と学園の校舎区を分断するように流れる円形状の河川、それらに掛けられた大橋の手前に差し掛かろうとする時。


「それじゃあ、俺は一旦ここで。装備を戻して人化したら拠点に戻る」


「うん、わかった」


 短い言葉の末、装備を背面に格納しながら飛行するタブラは技術科の校舎がある方角へと降下していく。エディゼートは横目でその姿を一目すると、目的地である中央塔入口へと向かっていった。


 灰色の石畳へと着地すると、学生らは長期休暇期間であるが出勤時間ともあってか、往来する人々は様々だ。

 特徴的な長細く鋭利な耳に締め付けの少ないローブを纏った長耳族の職員や、体躯の半分にも及ぶ銀白の翼をもつ色白金髪の学生が書類を持って渡り廊下を行き交い、野狐のような褐色の毛並みを耳と尾を揺らしながら足早に郵便物を配達する者など、純粋な人族以外の多種族も半数ほど混在している。


 中央塔の手前に開かれた鉄扉の入り口をくぐると、白色の煉瓦に覆われた外壁とは対照的に建物内は内壁の一部がガラス張りとなった白く明るい空間が広がっていた。そして、塔に囲われて外部からは視認できなかった、枯れ果てた魔願樹だったものの純白の骸が中央に見えた。

 エディゼートはそのまま入口正面にある昇降機へと向かい、学長室のある最上階を目指した。

 その昇降機内だった。


「――ご苦労だった、エディゼート」


「うわっ」


 声がかけられると同時、先端が鋭利な形状をした尾の先がエディゼートの腰元をつんとつつく。

 同乗者は誰もいないと思っていた昇降機内、だがそれはエディゼートと彼女の身長差が引き起こした勘違いであった。


「ふふっ、そんなに驚くな。お前の背が高くなり過ぎただけよ。まったく、クロムがこの学園にお前を連れてきたときは、まだ私の方が大きかったのになぁ」


「レイゼ学長......」


「朝からちょっとしたサプライズ。わざわざ学長である私が出向いたことを感謝するといいわ」


「はあ。要するに、暇ってことですね」


 胸の前で丈の少し長い白のボレロを止め、濃紺のワンピースの丈は床に擦れる寸前。背面が大胆に空いた装いから覗く雪のように白い肌、そして特徴的な鋭い歯と尖った耳先。エディゼートの腰上程の背しかないレイゼは童女のような体格から受ける印象とは対照的に、腰元まで伸ばされた吸血族特有の柔く艶やかな黒髪と長いまつ毛からは高貴さを感じられる。髪の先を散らすように生え動く羽の無い漆黒の翼と長い尾は、どこか機嫌が良さそうだ。

 レイゼは隣のエディゼートを命一杯見上げ、深紅の瞳を向けていた。


「あの、レイゼ学長」


「ん?どうした?」


「その......、制服の中を尻尾でまさぐるのをやめてもらっていいですか?すごくくすぐったいです」


 人工龍尾を装着するための切り込みがある制服の裾から背面へ。エディゼートがそう言ってもなおレイゼは止めることはなかった。

 そのままレイゼは表情を変えることなく続け、


「なに、ただの健康チェックよ。大切な生徒が戦場で怪我をしていないか、気になって気になって仕方なーくやっているだけ。うむ、診たところ異常なし」


「仕方なく、ですか。あ、それはそうと。すみませんね、こんな恰好で。戦地から直接帰ってきたばかりで手土産も無くて」


 身だしなみは整っているものの、エディゼートは人工龍尾と銃身が見えないように布に包まれた散弾銃を担いでいたままだった。だがレイゼは一切気にしない様子で首を振り、 


「構わないわ。それに、手土産ならあるじゃない。学長室で朝食を食べたらゆっくりと話を聞かせてちょうだい」


「そうですね」


 ベルが鳴る。すると昇降機は学長室のある最上階へと到着した。

 最上階は朽ち折れた魔願樹に蓋をするように、展望デッキとレイゼ邸兼学長室がある。二人揃って降りると、円形状に湾曲した廊下を進んで学長室へと向かった。


――――――


 滑らかな白い石畳の廊下の先、扉を開けて二人は学長室へと足を踏み入れる。


「失礼します」


 木製の扉をくぐると、装飾等が少なく質素ながらも気品のある空間が広がっていた。窓は開け放たれ、心地のいい柔らかな春風が鳥のさえずりと共に吹き込んでいる。

 中にはエプロンを掛けた女性の使用人が待機しており、エディゼートは肩に掛けた散弾銃を使用人に預けた。


「そこに掛けて。そうだ、何か飲むか?ちなみに、私は紅茶の気分よ」


「では僕も同じものを」


「ふふっ、昔みたいに砂糖とミルクはたっぷりかね?」


「いいえ。僕はもう十七になったのですよ、子供じゃありません」


 少しばかり見栄を張るエディゼートを微笑ましそうに見つめつつ、レイゼは使用人に目配せをする。そして両者は机を挟んで相対になるように席に腰を下ろした。椅子の背もたれの隙間からは、それぞれが人工と天然の尾を垂らしている。

 机の上には既に何種類もの乾燥させた果実が盛り付けられており、朝食の準備が着々と整えられていた。


「ここで朝食を食べるのも、久しぶりよね?」


「そうですね。まぁ、レイゼ学長と朝食を食べたことのある生徒は僕くらいですし」


「私の長い人生においてはそうでもないわよ。何百年も前から、私はお気に入りの生徒をよく食事に誘うの。お前の師匠だったクロムも、その一人だったわよ」


 話しの間にも、次々と朝食の準備は進められている。皿に盛りつけられたパン、そして苺のジャム。器にはプレーンヨーグルト、そしてキャベツと人参と塩漬け肉の入った琥珀色のスープ。

 両者ともに同じメニューであるが、エディゼートに配膳されたのはレイゼの倍以上の量の朝食だった。その量の多さにエディゼートは思わず閉じた口が開いてしまう。


「あの、こんなにたくさんは......」


「十七になったのよね?それに、隣にいた私が見えないくらい背が高いのだから、これくらい食べれないと」


 下から覗き込むように話すレイゼは微笑んでいたが、どこか乾いた印象を謎の威圧感と共にエディゼートは覚えていた。


「もしかして、先ほどのことをまだ根に持っていて......」


「さて、揃ったところで食べるわよ」


「あ、はい。では、ごちそうになります」


 こうして、静かだがささやかではないおもてなしが詰まった朝食会が始まった。


 大量の朝食を前に終始無言無心で食べ続けるエディゼートに対して、レイゼは優雅に味わって朝食を堪能していた。

 乾燥させた果実とプレーンヨーグルトの組み合わせはエディゼートの好物だ。結局、エディゼートは全ての料理を食べ終えるとヨーグルトをおかわりしていた。


――――――


「――ふう、ごちそうさまでした。満足です、しばらく歩けません」


 食事が一段落し、カップに注がれた紅茶が少しばかりぬるくなってきた頃。

 食べ過ぎによる苦悶混じりの満足げなエディゼートの表情を見て、レイゼはこれまた微笑ましそうに見つめ、


「ふふっ、それはよかったわ。では、腹ごしらえを終えたところで、少しだけ私に話を聞かせてくれるかね?お前から見た、大陸北部ディザトリー戦線の状況。そして、お前たち白影工房のこれからの展望を」


 食後のデザートを所望すると言わんばかりに。使用人が食器を下げる傍ら、レイゼはカップを手にしながらそう尋ねた。

 エディゼートはというと、食事中にある程度何を言うのかを考えていたのか淀みなく続け、


「はい。では、まずは北部戦線の率直な感想から話そうと思います」


「うむ」


「視察を通して、人道を重んじる保守派の多い大陸北部では、革新派の多い大陸南部と比較してやはり装備や戦術が古いといった印象を受けました。願魔獣の討伐数や決闘の勝敗によって英傑を大陸中から選定し、その英傑ら少数の絶大な戦力で軍事力を保っていた北部のやり方の不安定さが見受けられた、とも言えるでしょう」


「ふむ。確かに、今まで大陸北部の魔願術師マギフィアド協会の戦力を支えてきたのは歴代の英傑のおかげでもあるわ。無論、従来のように領土を願魔獣から防衛するだけならば今の状態でも問題はない。だが、こちら側から攻め入るとなると話は変わってくる。そう思っているのよね?」


 レイゼの言葉に同意していたエディゼートは首を縦に振ってみせた。


「はい、その通りです。半年前の南部諸国の視察の際、南部戦線では改造手術を施した魔願術師マギフィアドや、『回復薬』といった一時的に生体の魔願変換効率を上昇させる薬品を支給している部隊がありました。これは規制の少ない南部諸国だからこそできることですので、北部が全体的な戦力で劣ってしまうのは無理もありません」


 そう言い終えると、エディゼートは使用人によって再び注がれた紅茶に無意識のうちに砂糖とミルクを入れていた。

 聞き終えたレイゼは何度か頷いて、


「なるほど。――そんな状況である今だからこそ、お前たち白影工房の出番、か」


「はい。この人工龍尾も、生体改造を禁止としているトーステル王国でどうにかして他国との軍事力格差を埋めようとして開発されたものです。そして僕達白影工房は今、次世代の戦力として願魔獣の体表面の回路を解析し再利用した兵器を実戦配備に向けて開発中です」


 意気込むエディゼートの目はどこか輝いているようにも見えた。


「ふふっ、それは面白そうだわ。――南部は今ある生体を改造することで、北部は新たな兵器を開発することで戦力を増強させる。今はまさに戦場の変革の真っただ中であるわね」


「そうです。人工の龍尾だけでなく、人の手で作られた龍が戦場を飛び回る時代がもうすぐきます」


 そう聞いて、レイゼはカップを置いて姿勢を一度正した。

 何かを考えたのか、少し空いた間の末、レイゼは再び口を開く。


「ふむ、ついに時代はその段階まで来ていたのね。まぁ、生憎私は技術系についてはあまり明るくない。しかし、もしそれを成し遂げられればその功績は間違いなく歴史に刻まれるはずよ。――でも、そうだね。一つだけ聞かせてちょうだい、エディゼート」


「はい?」


 レイゼの目つきが変わった。先ほどまで表情にあった柔らかさは消え、まるでこれから何かを問いただすような冷たさと鋭さを瞳に宿していた。


「お前は数年前まで、師であり育ての親でもあったクロムの従順な一人弟子であった。だが彼亡き今、お前を動かしている原動力というものは未だにクロムの意思を思ってのことなのか?それとも、自分の意思によるものだと言える何かがあるのか。そのことについて、聞かせて欲しいわ」


 言葉に載せられた圧迫感を感じながらも、下方より突き刺さる視線からエディゼートは目を逸らすことはなかった。ただ、膝の上に置かれた拳を強く握りしめる。


「難しく、意地悪な質問ですね。――でも、僕の中で答えは既にあります」


 そうきっぱりと言い切ると、エディゼートはレイゼに気圧されないように表情を引き締めてみせた。


「ほう、どんなものかしら?」


「その前に、北部と南部の視察を終えて得た感想をもう一つ話してもいいですか?」


「構わないわ」


「では。――わかったことがあるんです。北部の魔願術師マギフィアドの人たちには、良くも悪くも人間らしい感性が残っている。仲間の死や負傷に敏感で、自身に与えられた役割に対して真摯で、そして人を思いやる温もりが消えていなかった。実は願力って、対象の精神の根幹がどういう状態かによって見え方が違うんです」


 エディゼートは先日のディザトリー戦線での出来事を思い出していた。

 作戦本部での職員らとの会話、そして戦場での魔願術師マギフィアドとの会話。

 人それぞれではあるものの、エディゼートの目に映るものは総じて淀みがなかった。それは願力、すなわち生命の生きたいと願う意思の力が見える彼だからこそ言えることだった。


「なるほど。そして、そのことがお前の答えに関係していると?」


「はい。僕は今まで、人の優しさによって生かされてきました。ですのでこれからは僕が、いいえ。僕ら白影工房が、僕らにしかできないしかできないやり方で、人々の生活そして優しさといった人らしさを守っていきたいのです。結局、この意思は師匠のものと同義ではあります。ですが、そう思えるようになったのは自分自身が経験したことがあるからこそです。だから誓って言えます、これは紛れもない僕の意思です」


 語るにつれて、徐々にエディゼートの言葉には熱が込められていた。エディゼートはレイゼに気圧されそうになったのに反発するように、わざと気迫を込めて言い切ってみせた。

 今はただ、目の前のレイゼを見つめている。


「......そうか」


 一言呟くと、レイゼはもう残り少ない紅茶が入ったカップを無心で手に取った。


「(自分の意思である、か)」


 エディゼートの言葉を繰り返す。

 レイゼの目には、目の前にいるエディゼートの姿が大きく映るようになっていた。この時、レイゼは初めて気づくこととなった。目の前にいる青年の成長を認める自分がいるということに。

 もう、師に甘えっきりの子供ではないのね、と。


「えーと、これで答えになりましたかね?」


 手にしたカップの水面に目を落としたままのレイゼを見て、エディゼートは少々不安そうに尋ねる。するとレイゼは顔を上げて、


「うむ、十分伝わったわ。ふふっ、ごめんなさいね。我ながらつい意地悪なことをしてしまったわ。でも、よかった」


「何がですか?」


「エディゼート。あれだけ甘えん坊だったお前が、クロムの死から立ち直ってくれていて」


 レイゼから向けられた笑みの意味をエディゼートは探ろうとしなかった。いや、考える余裕もなかった。

 何故ならば、レイゼがとあることを知っていることを、エディゼートは知っていたからだ。


「そうね、白影工房の子たちからいろいろと聞いていたの。夜に一人ですすり泣いていたり、鼻先を赤くさせながら泣いていないと意地を張っていたり、遺品の散弾銃を片時も離さなかったり。それから......」


「やっ、やめてください!だって、ほら、大切な人が死んだら誰だって悲しいでしょ!あぁもう、あいつら......」


 顔を少し赤らめながら前のめりになるも、すぐに柄にもないことをしてしまったと元に戻った。だがそのままエディゼートはカップに口を付けてそっぽを向いてしまった。


「ふふっ、別にそれが普通よ。ただ、無愛想な子にも可愛い一面があるのだなって」


 微笑むレイゼの尻尾はゆらゆらと揺れていた。


「はぁ。それよりも、もう三四年前の話ですよ?今更掘り返さないでください」


「はは、そうね。でも、私の感覚では数年前も数か月前も変わりないのよ。人の子の成長というものはあっという間ね」


「はいはい、そうですね。――よし。では、朝食ごちそうさまでした」


 まるで早くこの場から立ち去りたいと言わんばかりに、エディゼートは頭を一度下げるとカップを皿に置いた。


「あら、もう行っちゃうの?」


「これ以上ここにいると僕の小さい頃の話ばかりされそうなので、この辺でお暇します。――すみません、荷物を」


 使用人は席を立ったエディゼートに散弾銃を渡す。エディゼートは受け取るとすぐさま肩に掛け、扉の方へと足早に歩いていった。

 レイゼも見送るように席を立って扉の方へと向かう。


「ふふっ、まぁいいわ。エディゼートが元気だってことがわかったから、私の目的は完遂よ。それじゃあ、頑張ってね。またいつか一緒に食事をしましょう」


 そう言ってレイゼは長い尾の先でエディゼートの後頭部を撫でた。


「はい、是非とも。では、失礼します」


 朝食会の終わりは早々に。こうして、レイゼに見送られながらエディゼートは部屋を後にした。

 外は少しずつ暖かくなり、ガラス越しに差す日の光を少しばかり眩しそうにしている。




――――




 海岸沿いの隣街シェフターレへむ向かう道中、エディゼートの頭の中ではレイゼの言葉が反芻していた。


「(師匠の意思なのか、僕の意思なのか)」


 そんなことを考えながら中央塔を出ると、飛行もせず徒歩で白影工房の拠点がある海岸へと向かっていった。

 中央の大通りは朝方と比較して行き交う人々で賑わい、移動型の屋台では食品や雑貨等がずらりと並べられていた。

 何気なく人々の営みを眺めている、その途中だった。


「あれ、あそこにいるのは......」


 そこにあるのは見覚えのある人影だ。

 短く切りそろえられた癖のある白色の髪、若々しく血色のいい白い肌、そして日の光を反射して鉱石のような輝きを散らす金色の瞳。低い背丈を一生懸命伸ばして棚の上にある香辛料の入った瓶を取ろうとしている、高下駄を履いた一人の少女がいた。

 だが他の生徒と違うところがあり、その少女は自身の体形に合わない大きめの男性用の制服を着ている。


「うぅ、あと少しで......」


 その様子を見かねたエディゼートはすぐに少女のもとへと進んでいき、瓶詰に手を伸ばした。


「はい、これが欲しいんでしょ?」


 背後から手渡すと、少女はすぐさま振り返ってみせた。


「ん?あぁ助かったぜって、エディ!?」


「やぁ。相変わらず、人の姿になると小さくてかわいいね。――『タブラ』」


 先ほどまであった雄龍としての威厳はどこへやら、くりっとした目を丸くした少女タブラがエディゼートを見上げていた。

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