プラネタリウムと流れ星 (3)
それから、四時半と五時半の上映もつつがなく終えることができた。その反響は、天球の外にいる俺にまで聞こえる拍手で容易に想像することができた。
「プラネタリウムの展示、大成功っぽいね」
天球の中から出てきた結城さんに、俺は声をかけた。天文部、生徒会他、それと陸上部が二回。合計四回も説明したからだろうか、結城さんは少し疲れたようだった。
「うん。ありがとう。でも、まだ、なんだよ」
「まだ?」
電気部と手芸部と生徒会、それに陸上部。今回協力してくれた人への展示は全て終わっただろうに、「まだ」とはどういうことだろうか? 吹奏楽部は、違うよな? あそこは今もバックグラウンドミュージックの練習で手いっぱいだろうし。
「……うん」
結城さんは気弱そうに返事をしたが、少しその表情が暗い。
何か励まそうかと言葉を思案していると、後ろから声をかけられた。
「あのー、天文部の部長さんからさ、六時に来てくれって言われたんだけどさ。上映、終わってる?」
声をかけてきたのは、見覚えのある背の高い坊主頭、陸上部三年の三好先輩だった。
「はい。おわ――」
「まだです! まだやってます!」
俺の言葉を遮って、結城さんが答えた。
さっきまでの暗い表情は一変して、目に輝きが戻っている。
「結城さん?」
俺は気になって結城さんに声をかけたが、結城さんは俺の言葉をスルーして、三好先輩に話しかけた。
「まだ、上映は残っています。地学室の中へどうぞ」
「ああ。天文部の部長さん。そうか。よかった。陸上部の連中に聞いても、四時半と五時半しか言われてないって聞いてたから、聞き間違いじゃなかったんだな」
「はい。三好先輩には六時で上映案内をしましたから。あ、五味君はもう生徒会に戻ってくれていいよー」
「あー、う、うん」
一体、何だったんだろう? 俺は疑問に感じつつも、結城さんと三好先輩を残し、生徒会室へと足を向けた。
生徒会室では、メンバー全員が居残っていた。
「こんちわーっす」
俺の挨拶に、いの一番に小原さんが答えてくれる。
「ああ、五味君! プラネタリウム、凄かったよ!」
その称賛は、俺よりもずっと結城さんに言ってあげるべきなんだが、ここは俺が受けておくとしよう。結城さんには明日にでも俺から説明すればいいし。
「ありがとう、小原さん。鳳さんの流れ星の投影機もばっちりだったね」
「もちろんです。私としてはもう少しエネルギー消費を抑えたかったのですが、それはまあ、今後の課題として、アレはアレで自信作です」
鳳さんはムフッと胸を張った。うん、あの流星群は見事だったし、鳳さんが自信満々なのも分かるな。それでもまだ課題を考えているところなんか、鳳さんは意外と野心家なのかもしれない。いや、そんな立派なもんじゃなくて、ただの機械オタクなだけかもしれないが。
「あはは、それで、波川さんはサボり?」
俺の軽口に、波川さんはぷくっと膨れた。
「五味センパイ、私にだけひどくないっすか?」
しかし、波川さんは図星だったようで、唇を尖らせ、ポリポリと頭を掻いた。
「まあ、サボりなんすけど……」
うん。まあ、今日は天文部のプラネタリウム上映もあって、陸上部も練習に身が入ってないだろうから、厳しいことは言わないでおこう。彼女も大事な大会の前とかは流石に陸上部の活動を優先するだろうし、今はプラネタリウムの成功の喜びを分かち合うことの方が大事だ。
俺は改めて、女子三人に向けて頭を下げた。
「ありがとう」
俺のお礼に、三人は慌てた様に手を振った。
「えっ、ちょ、五味君?」
「五味先輩?」
「センパイ?」
俺はお礼に続けて、その訳を説明する。
「結城さんの提案が通ってプラネタリウムが完成したのも、生徒会の問題に皆が一緒に取り組んでくれたからだからさ、本当にありがとう」
最後は重くならないように、ちょっとだけ軽口っぽく礼を述べた。
「いいよ。私は何もしてないし」
小原さんは謙遜するが、小原さんの豊かなバストがなければ手芸部の問題は解決しなかった。
「そうですよ。私は私のやりたいことをやっただけです」
鳳さんの電気部入部という決断が無ければ、問題解決も、流れ星の投影機も、どちらも上手くいかなかっただろう。
「火、点けただけっすよ?」
確かに……波川さんがあの思い切った行動を起こさなければ、陸上部女子の協力は得られなかっただろう。
全部、皆のお陰だった。
「うん。全部ひっくるめて、ありがとう!」
俺の言葉に、三人は照れた様に頭を掻いた。
最後に、俺は廉也に今日の報告をする。廉也はいつも通り、会長席で悠々とコーヒーを口にしていた。
「廉也。天文部のプラネタリウムの初上映は上々だ。これなら、校外に公開しても問題ないだろう」
「そうか。それは良かった」
廉也の口数は少ないが、天文部の成功を喜んでいるようだった。
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