私立久保ヶ丘学園高等部生徒会 (3)
席を立ち、生徒会室の本棚の前で探し物をする。
「えーっと、あった。これとこれだ」
本棚の最上段から、ファイリングされた「部活動実績目録」および「部活動所属人数目録」を手にし、再び席に着いた。
生徒会顧問の先生から手渡された来年度向けの各部活動の予算案に目を通しながら、各部活動の活動実績や規模と照らし合わせながら、妥当な予算を算出し、予算要望の額と比較する。その上で、不適切であれば来週の部長会で議題にあげなければならない。アナログにもほどがある紙の束とにらめっこしながら、俺は眉間に皺を寄せながら電卓を叩いた。
予算案一枚目は野球部のものだった。
「野球部。実績、夏の高校野球大会、一回戦敗退。部員数は三年から順に七人、八人、六人。ってことは来年度は人数が減るから、実績を考慮しても一割減ってとこかな。うん、予算案も妥当な金額に下がっている。これならいいだろう」
殺伐とした俺のオーラ以外、生徒会は呑気なものだった。それもそのはずだ。この生徒会は庶務である俺を除いて、ほとんど生徒の人気投票で役職が決定する。そのため、廉也はイケメンだし、小原さんも鳳さんも波川さんも顔面偏差値が高い。俺一人だけ、場違いなくらいに花が無い。
故に、この生徒会で真っ当に仕事を処理するのは、定期試験の成績で強制的に入会させられた俺の役割だった。成績が良かったのではない。それならば率先してやろう。成績が悪かったのではない。それならば諦めもしよう。ただ、俺は偏差値五十の超平凡的数値を叩きだしたがため、選抜されたのだ。久保ヶ丘学園に通う生徒のうち、最も平均的な者として、俺は生徒会庶務の役割に任命されたのだ。ひどいもんだろ? 優秀でも落ち目でもないのに、雑務を押し付けられるなんてさ。まあ、おかげで大学は推薦してくれるみたいなので、この労働も対価がないというわけではない。長期的に見れば、意味のある時間だろう。そして、今日も生徒会の仕事に、貴重な放課後を消費していく。
野球部の予算案とにらめっこしていると、廉也が何かに気づいたように俺に声をかけてきた。
「虎守。野球部の予算か?」
俺は視線を予算案から廉也の方に移すと、廉也は身体は窓の外を向いたままで、頭だけ俺の方を向いていた。端正な顔は、同性である俺から見ても、格好いいと思った。目にかかるくらい伸びた前髪が、風にふわりと揺れる。
あ、生徒会室がちょっと肌寒いと思ったら、廉也め、窓を開けて外を見ていたのか。
「ああ。来年度の予算は今年の一割減ってところだ。ってか、寒いから窓閉めてくれ、廉也」
「そうか……。惜しいな。今年の野球部はちょっとやるぞ」
廉也は思わせぶりなことを言って、再びグラウンドの方を向いた。
「廉也、お前、野球経験あったっけ? あと、窓閉めてくれ」
「……」
廉也は口を閉ざしたまま、俺に言われるがままに窓を閉めた。
ああ、本当に思わせぶりで、適当に言ったのね。それなら考慮する必要ないな。
今日は月曜日だ。二階堂先生から言付かった締め切りは来週頭なので、あと五日で数十の部活動の処理を行わなければならない。一つの部活に割ける時間は多くて十分といったところだろう。これ以上、廉也に構っていても時間効率が下がるだけだな。
俺は気を取り直して次の予算案に移った。
「サッカー部。実績、夏の大会、一回戦敗退。部員数は三年から順に七人、八人、八人。実績は野球部と同等だけど、来年度は人数が増える見込み、か。うーん、五分減ってとこかな。ううん? 予算案、増えてる。何でだ? ああ、ユニフォームの新調か」
どうやらサッカー部は三年に一回ほどのペースでユニフォームを新調しているようで、その金額を予算案に算出しているようだ。
「うーん。ユニフォームか……。予算は限られているから削りどころではあるんだけど……」
難しいな。しかし、活動実績が伴っていないことに重点を置くなら、ここは厳しい判断をするべきだろう。
「よし。平年と同額。増減なし。これ以上は増やせないっと」
俺は予算案に赤いペンで金額を修正し、その横のスペースに改ざん理由をメモる。
「活動実績が伴っていないため、と」
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