名探偵ボディビルディング

沙月Q

ある役者のナンセンス小噺

 俳優というのは辛い仕事だ。


 それは俺の故郷パリでもロンドンでも、ここハリウッドでも同じことだ。

 そもそもハリウッドに渡って来たのは西部劇が好きだったからだった。

 フランス人が西部劇好きでおかしいか?

 当然、好きだけでは仕事にはならないし他のジャンルにはとんと興味も知識もないと来てるので、およそ役には恵まれなかった。

 やがて年月は流れ、腹が出て頭は禿げ上がり、仕事があっても普通のおっさんの役がせいぜい……


 だが、そんな自分にもついにチャンスが巡って来た。


 世界的な名探偵の役が。

 俺は張り切って役作りした。

 必要なのは筋骨隆々の肉体。

 俺はボディビルに通って肉体改造に取り組んだ。

 名探偵になるためのボディビル。

 そして遂に本番の日。

 完璧な体づくりに成功した俺は一番にスタジオ入りして…

 スタッフ全員の呆れ顔に迎えられた。

「…なんだ? そのなりは?」

「え?役作りしたんですよ。ヘラクレスの……」

 監督はイスを蹴って激昂した。

「ヘラクレスじゃない! エルキュールだ! エルキュール・ポワロ!!」


 俺は主役をおろされた…



(エルキュール=Herculeは「ヘラクレス」のフランス語読み)

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