29話

「ここか……。今回の現場は」



 冴島たちは、鍵山の病室であり、犯行現場である一室を綿密に調べていた。鍵山は相当抵抗したらしく、病室とは思えない程、荒れている。白色が基調の病室の中で、ベッドに広がる血が凄惨さを物語っていた。鈍器と思われる花瓶の破片に紛れて、それは置かれていた。



「それで、これが問題のカードか」



 冴島たちの視線は床に置かれたタロットカードに注がれていた。八番目のカード「正義」。もちろん、指紋は残っていないし、その他の汚れなども見当たらない。そして、タロットカード以外に遺留物は見当たらない。



「先輩、現場百回といっても、この状況じゃ収穫は期待できそうにないですね」早くも山城は諦めムードだ。



「諦めるのは早い。奴はカードを変えてまで、こちらをかく乱しようとしている。何か手がかりがあるはずだ。そう何かが……」彼は自分に言い聞かせるようにつぶやく。



 八番目のカードは「正義」だった。もし、順番を変えないのであれば、次の現場に置かれるのは、九番目のカード「隠者」なのは間違いない。これはどちらのバージョンであっても同じだ。



「それにしても、偶然ってあるんですね」



「偶然?」



「今回含めて四件ですけど、最初の弁護士殺害以外は、捜査一課に縁のある人ばかりじゃないですか」



「佐々木の恋人、佐々木、鍵山……確かにそうだ。犯人は捜査一課に恨みがあるのか? それとも……」



 その時、冴島の頭にある考えが浮かんだ。佐々木の恋人が殺された現場には「恋人」のカードが置かれていた。もし、犯人が彼の恋人をピンポイントで狙ったとしたら、意図的に「恋人」のカードを置いたことになる。そうであれば、他のカードにも何かしらの意図が隠されている可能性が高い。



「おい、山城。ここに用はない。引き上げるぞ」



「冴島先輩、正気ですか? 捜査一課に戻っても、進展があるとは思えないんですが」



「今は過去の事件の情報の方が重要だ。もしかすると、奴の次のターゲットが分かるかもしれない」冴島にはある程度、確信に近いものがあった。



「本当ですか!?」



「ああ。今回こそ逃しはしない」そして、彼は心の中で付け加えた。自らの父親の仇を捕まえてみせると。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る