悪夢、再び
やってきたのは都内の高級マンションの一室だった。二十階建ての巨大な建物は、昼間でも威圧感を放っている。エレベーターで五階に向かう途中、冴島は無意識に背筋を伸ばした。何か嫌な予感が頭の片隅をちらつく。それを振り払うように、階が到着する音とともに静かにドアが開いた。
現場はすでにバリケードテープで封鎖され、警官たちが行き交っている。冴島はテープをくぐり、無造作に警察手帳を見せて現場に足を踏み入れた。
「うわ、派手にやってくれたな……」
リビングに入ると、目に飛び込んできたのは凄惨な光景だった。床に、壁に、そして天井にまで、真っ赤な血が散らばっていた。撲殺なのは明らかだった。
「先輩、ボケっとしていないでください。捜査ですよ、捜査」
冴島は我に帰ると、仏に手を合わせ、「失礼します」と断ってから衣服を探る。見つかったのは、財布にスマホ。そして、名刺ケースだった。
「さて、財布の中の免許証はどこかな。あった。今回の被害者は……
「死因は殴打による失血死、っと。先輩の言う通り、恨みが原因ですかね。普通こんなにド派手に殴りませんから」
山城は被害者の頭部を指す。
「なるほど、数回殴られてるな。恨みの線が濃厚になってきたぞ。だが、そう決めてかかると先入観で真相を見失うからな。あくまでも可能性の一つだ」
冴島は教育係として山城に言うが、彼女は別のものに興味を抱いているようだ。
「先輩、これ事件に関係ありますかね? それとも、被害者の趣味ですかね?」
「どれどれ」
冴島が「よっこいせ」と立ち上がり、山城のもとに向かう。
「ほら、これですよ、これ」
山城が見つけたのは、タロットカードだった。次の瞬間、冴島は興奮して床に落ちた、それを見つめる。
「おい、山城。三年前の事件を知っているか?」
「いや、三年前は大学生でしたから、詳しくはないですね」
「じゃあ、教えてやる。三年前に連続殺人事件が起きたのは知っているな? 未解決に終わった事件を」
「もちろんです。それくらいの知識はありますよ」
山城の声は「馬鹿にしないでください」とばかりに、少し怒りが混じっていた。
「その事件現場には、必ず置いてあったんだよ。タロットカードが」
「つまり、その犯人と同一人物かもしれない……と?」
「こいつが漏れたら面倒だな。当時、マスコミはタロットカードが落ちていたことを報じている。つまり、この状況を奴らが知れば、騒ぎ立てるだろうさ。『悪夢再び』ってな」
冴島の脳裏には、三年前の事件が頭をよぎっていた。冷徹な悪魔が行った犯行の数々が。もし、同じ犯人ならば、この後も事件が起きるのは間違いない。自然と拳を握っていた。
「先輩、怖い顔してどうしたんですか?」
山城は冴島の顔を覗き込む。
「そうだな、もう一つ教えてやろう。三年前の事件で亡くなった被害者にいたんだよ。俺の親父がな」
二人の間にはどんよりと、そしてなんとも言えない重たい空気が漂っていた。
クロユリの花束を君に 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
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