第22話 最終話

 片付けの手を休めずに、ジョン・ドゥはココを観察した。

 ココは顔色を変えたり、汗をかいたりと機械だとは信じがたい動作を見せる。


「ところで、それは酒か?」

「なによ、没収しようっていうの?」

「おれはもう政府の犬ではない。合法かどうかは知らん。喉が乾いた。一杯貰えないだろうか?」


 ジョン・ドゥにペースを乱されてばかりだ。

 この男は話を聞かないし、独善的だし、うんざりしてしまう……予定調和に収まらないところが、想像よりもずっといい。

 ココは酒瓶を渡そうとして、やめた。


「それよりも、お茶を飲みましょう。キャロットケーキの試作品があるの」

「ケーキの試作品?」

「今日、お誕生日の子がいるから、パーティーをするの。血の繋がりはないけれど、家族のように想っている子たちを招いてね」


 いつかのイメージトレーニングどおりに発言できた。ココはふふと笑みをこぼす。


 ──おれの過去を知ったら、この優しい機械人形を深く傷つけてしまうだろう。

 ジョン・ドゥは切なくなり、顔を曇らせた。


「さあ、今日は忙しくなるわ。お茶を飲んだら店内をきれいにしなくちゃ。あたしはお誕生日会用のケーキを焼くから、あなたは店の飾りつけをしてね」


 この感情が恋なのか愛なのか、それともまったく別のものなのか、ジョン・ドゥ自身にもわからない。

 今はただ、ココと一緒にいたいという気持ちを大切にしたい。


 ココの心臓が止まるその日まで、そばにいよう。すべてのものからココを護ろう。ココの笑顔のために。


「大事なことを忘れていたわ。あたしはココ。『人形師マリオンの箱庭』の店主よ。あなたのお名前は?」

「おれは──」


 天使の沈黙は弾け、朝の喧騒が目覚める。

 9:05 a.m. ココの新しい物語が今、はじまる。了

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4:44 a.m. 天使が通る【終末世界/ディストピア・ファンタジー】 その子四十路 @sonokoyosoji

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