第21話

 そうしているうちにジョン・ドゥは、商店街会長のダニエルから思いがけない情報を聞いた。


“ココの心臓には爆弾が埋め込まれている”


 保護した際の精密検査で、ココは全自動機械操縦人形だと判明した。

 機械技師に見せたところ、“見たことのない精巧なつくりの爆弾が搭載されている”と言った。

 商店街の住人たちは、マリオンの正体に予想がついたという。


 戦争によってすべてを奪われた自分たちと、主を失った全自動機械操縦人形。

 失った痛みを抱える者同士、共存していけると思った。

 住人たちは、ココの存在を隠した。政府にだけは渡してなるものかと。


“──あの子の心臓には爆弾が埋まっている。アンゲルス、いいやアウトポスを壊滅させる、はたまたそれ以上の威力の爆弾がね。ビマゲオが作ったものならば、品質はお墨付きでしょう。

 しかし、捕らえられたとき、ビマゲオはココを爆破させませんでした。ココを盾にして逃げることだってできたでしょうに、ビマゲオはそうしなかった。なぜだと思います?

 爆発に巻き込まれることを恐れた? そうかもしれないし、違うかもしれない。わたしたちは信じているんです。

 ──ビマゲオは、ココを愛していたんだって。娘を殺したくなかったから、爆弾を起動させなかった。


 戦争犯罪人に夢をみすぎだって? 夢をみたっていいじゃないですか。ココは十年、父親の帰りを待っているんです。愛された記憶データがあったから、待てたんですよ。

 そうでなけりゃ、ココがあまりにかわいそうでしょう。世界を壊すためだけに生まれたなんて、あんまりだ。


 ビマゲオは高次元電磁波爆弾を作って数多あまたの生命を奪いましたが、ビマゲオに爆弾を作らせたのは、わたしたち人類です。

 ココはいつだって自爆できたのです。来るべきときに備えて、あの子のために電力を確保してきました。わたしたちは、あの子がかわいい。あの子が世界の終わりを望むなら、それでもよかった。最期までつきあいます。

 この十年間、ココは爆弾を起動させなかった。わたしたちの生活を脅かすこともしませんでした。


 ビマゲオ亡き今、ココをメンテナンスできる技師はいません。

 あの子のボディは限界が近い。世界最凶の爆弾だって、じきに意味がなくなる。本人が知らないはずがありません。

 我々があの子を愛しているように、あの子も我々を愛してくれています。


 ──ココは人間よりも人間らしい全自動機械操縦人形です。

 ココの心臓に埋まっているのは、血の通った温かいなにかです”

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