第9話

「なるほど。あたしたち孤児をさらし者にするのですね。涙なくしては見られないリアリティーショーになるでしょう。大統領の支持率も上昇するかもしれない。そしてあなたは、孤児を哀れに思う心優しき人びとに寄付金を募るのですか? いい商売です」

「あんたにだって金が入るだろう。損をする人間なんていないじゃないか!」


 男は気色ばみ、声を荒らげた。


「マリオンの生命はいくらです?」

「は?」

「ひとひとり分の生命の値段を訊いているんですよ! 損をする人間はいないですって? ふざけるな! お金をいくら貰ったって、死んだ人間は戻ってこない。

彼らは苦しんで、苦しんで、のたうちまわって死んだんです。悔しかったでしょう、家族や恋人を遺してゆくのは忍びなかったでしょう。恨めしかったでしょう。それでも死んでしまったんです。

他人の生命でお金儲けしようとするなっ!」


 マリオンは死んでしまったのだと、本当はココもわかっている。待つのをやめようと何度思ったか。

 しかし、最期を看取ってやれず、遺骸を見ていないココは、万にひとつの可能性に懸けたかった。

 マリオンは生きて、自分の元に帰ってくるとあきらめたくなかったのだ。


 ココは馬鹿力を発揮し、男を勝手口から追い出した。

 野太い叫び声が響く。恐ろしい目に遭っても知ったことではない。

 興奮して唇が切れ、血の味がした。

 突如、ぎゅるぎゅると急発車するタイヤ音が聞こえた。仲間がいたのだろうか。


「──ああいう、歪んだ正義感を持った輩が一番たちが悪いのよ」


 死んだ人間は戻ってこない。生命を失ってしまえば、それまでなのだ。

 その日、ココは店を早じまいした。

 冷たいベッドで、胎児のように丸まって眠った。

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