第8話 Day 2

「──あなたがお父さんを待ち続けているというお嬢さんですか。いやあ、健気な娘さんだ。いいお話を持ってきました。戦争で亡くなった方々の慰霊碑を建設する予定がありましてね。砂海に負けない、しっかりしたものを建てますよ。

そんな顔をなさいますな。ご心配されなくとも無料です。それどころか、戦争孤児であるあなたには國から救済金が支給されます。これまでご苦労された年月分も遡って。戦後十年を記念した、大統領閣下のサプライズです。大統領閣下は懐が深いでしょう?

そのお金でおいしいものを食べたり、新しい服を買うといい。旅行もいいですね。いい気分転換になるでしょう。つきましては、慰霊碑完成時の式典にご出席いただきたく……」


 Day 2 11:11 a.m. 『人形師マリオンの箱庭』を訪れた中年男は、ガスマスクと防護服を装備したまま、異様な早口でまくしたてた。


「ごめんなさい。おっしゃっていることがわかりません。もう一度ご説明していただいても?」


 要約するとこうだ。戦後十年を記念して、戦時中に死亡した人びとの慰霊碑を建てる。合同葬も予定しており、費用はすべて無料。戦争孤児には救済金が支給される。

 男は慰霊碑と共に新設される共同墓地の施設長に就任する。

 これらは大統領の発案であり、政府が推進する大きなプロジェクトである。


「なぜ、今さら? もっと早くに救済金をいただければ、助かった孤児もいたでしょうに」


 ココのように手厚く保護された者ばかりではない。多くの孤児は親を喪い、路頭に迷った。

 食うに事欠き、騙され、踏みにじられ、犯罪に手を染めた孤児がどれだけいたか。

 今の今まで放っておいた政府がなにを言う。当事者の率直な感想だった。


「戦争犯罪人の処刑と後始末に忙しかったからですねぇ。いわば、戦争は國家規模の祭りですから。祭りが終われば、誰かが責任をとらないといけない。大統領閣下と政府を恨むのはお門違いです。高次元電磁波爆弾を作ったビマゲオを恨みなさい」

「戦争の全責任はビマゲオにあると?」

「そうでしょうなぁ。あの爆弾がなければ、ここまで世界が崩壊することもなかった。死亡者のほとんどはあれにやられてしまったわけですから」


 ココの尖った声にも中年男は怯まない。首をこきこきと鳴らし、ねっとりと絡みつくような声色で囁く。

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