第5話 埼葛地方の夏のフィールドワーク
大学4年の夏休み、県民研究会の7人は再び、埼玉県のフィールドワークに向かった。7人乗りのワンボックス車で移動するフィールドワークである。ただの小旅行である。
周遊するのは埼玉県東部の埼葛方面。五十嵐の実家の五霞町が近い。もし、父親に何かあった時に距離が近い。五十嵐に配慮した旅行プランだったのである。
五十嵐夏澄は、安心した様子で旅行に参加してくれた。しかし、実態はちょっと違った。周遊先として埼葛地方を選定し、いかに五霞町から近いと言っても、父親の入院先は茨城県の中部だったからである。
一日目、白岡市の農場でブドウ狩り。その後、春日部駅に移動し、周囲を散策するが何もない。「クレヨンしんちゃん」で有名な春日部であるが、ここを舞台に選んでいること自体が、ある意味ギャグだったのである。駅前のカスカビアンマークの前で記念撮影を行った。ここで大黒は合流した。
次に、東武線武里駅を見学。東武線の普通列車しか止まらない武里駅にはさらに周囲に何もない。ここにいったい何の用事があるのか?スラムダンクで武里という高校が出てくる。そのためにわざわざ武里が経由地となっているのである。
作品中では湘北、陵南、海南大付属とリーグ戦を争うチームで、本当は強豪校のはずである。武里高校の監督は「湘北には大差を付けて勝つ。得失点差で2位通過を目指す」と豪語したが、スキルの高い選手を多く備える湘北に、なんのスキル選手も登場しない救いようもない武里高校はボコボコにされるのである。
もし、仮に主人公チームに武里高校が大差で勝利したら、その次の週でスラムダンクは打ちきりになっていただろう。
武里周辺をくまなく捜索したが、スラムダンクにつながる要素は見つけられなかった。
武里駅前には「金子商事」の看板の謎のビルが見えた。きっと、この「金子商事」がこの地域経済を牛耳っているのかもしれない。しかし、その裏側に新たな高層ビルが建ちつつあった。「白蓮商事」のビルであった。
このあと、遠目から武里中学を見学した。校門近くの川の橋周辺で不良が溜まっている。体育館の裏にペンキで落書きがされている。校舎の窓ガラスがところどころ割れている。やはり、スラムダンク的な要素は見当たらなかった。何の変哲もない田舎の中学だ。
帰り際、オートバイにまたがった特攻服の集団が現れた。平成なのに暴走族である。
運転手は富田。助手席は大黒である。富田はとっさにハンドルに力を込めた。
「どうしよう。スピード上げて逃げるか?」
ここで、助手席の大黒がアドバイスをした。
「だいじょうぶよ。脇によけて。じっとしていれば攻撃してこないわよ。」
大黒が言った通り、脇に寄せて、待機すると、暴走族集団は特に攻撃することもなく、爆音を上げながら通過していった。
彩野は後部座席から身を乗り出して大黒に尋ねた。
「なんで、わかったの?」
「ここら辺、地元だから」
しかし、オートバイの集団から二台が離脱。来た道を逆走し、戻ってきた。特攻服の刺繍からは、先頭のオールバックの男が「特攻隊長牛若」で、二台目の巨漢の男が「爆音隊弁慶」というらしい。さすがに、本名ではないと思われる。
二台はそのまま中学校に乱入。その様子を中学教師たちは遠巻きに眺めるだけで、何もしない。ロータリーを何周かするとエンジンをふかして爆音を轟かせ、去って行った。
その日の午後、春日部市内の大凧記念館を見学。利根川のキャンプ場で1泊目となった。
大宮、浦和、与野などと同様に春日部市も周辺自治体との合併協議を進めていた。
埼葛地方の中核市を目指す春日部市は、周辺の町を巻き込んだ合併を目論むが、財政状況が比較的安定している宮代町と杉戸町にも相手にされず、岩槻市も大差で否決。最終的には残ったのは庄和町のみという状況であった。いろいろ気の多い割に合併の魅力について実力不足だった春日部市に対し、庄和町の思いは一途だったようである。
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