第3話 まずは姉を超えてゆけ

 翌日夜、私は配信枠をたてた。

 タイトルはこう。


●急募 / 雑談● 妹彼氏をどうにかする作戦会議室


「というわけで、妹の彼氏をどうにかする作戦会議をします。……わかるよ?みんなもしかしたら興味ないかもしれないけどね?私は同じエルフとして、敵対意識を持っているからね。あいつに」


 流石に咲の彼氏がリアルエルフとは言えないので、自分と同じ森に住んでいるエルフだとリスナーさんには説明しながら、相談することにした。こうすれば同じVtuberさんか普通の彼氏の話だと思ってくれるだろう。きっと。絶対。


 ちなみに咲には活動の話をしたうえで、キュスタールの話をしていいか許可とりをしたが、二つ返事でOKを出してくれた。お姉ちゃん、ちょっと妹の危機管理能力が心配です。


【久しぶりにエルフ設定出てきたな】

【懐かしい、ウタちゃんそういえば森に住んでたね】


 そういうお姉ちゃんも、本名そのままで配信活動してるから、どうかとは思ってるけどね。うん。


「そういえばとは何事!?ほら、ちゃんとお部屋だって森の中でしょ?クーラーとかも完備の、完璧な我が家を見て!」


【エルフってクーラーにあたるんだ】

【仕事してなかったっけ】

【で、何の話だっけ?】


「エルフだって仕事しますぅーそしてエルフだって嫉妬しますぅー!なによう!ともかく! 妹の彼氏をどうにかする作戦会議したいの!」


 いつもの雑談枠と変わらないコメント欄とのプロレスを繰り広げながら、再度リスナーさんに聞いてみる。


「妹の彼氏と昨日会ったんだけどね、め~~~っちゃ束縛強そうなの。お姉ちゃんとしては見過ごせないわけですよ。だからこう、一発殴れないかなって」


 モデラ―さんに動くようにしてもらった杖を持っている腕を振り回し、力説する。


【その杖で?魔法ではなく?】

【パワー特化型エルフ】

【脳筋エルフ】


「お?喧嘩か?いいぞ?やる?……でもそういうこと。なんか私でも勝てそうな戦いないかな~魔法とかじゃなくてさ~」


 身体を全力で左右に揺らしながら考えるが、なにも思いつかない。相手は魔法使いと言っていたので、きっと向こうの苦手分野だろうパワーであれば何とか勝てるのではないか、そんなことを考えた。


 が、あのにやけ面を思い出すとどうしてもグーがこう!こう!出てしまい、思考がまとまらないので、みんなと一緒に考えようと思ったのだけど。


【じゃんけんは?】

【しりとりとか】

【腕相撲】

【妹さん大好き選手権じゃん】


 小学生の休み時間か?え、もうちょとほら……リスナーさんから見た、私が勝てそうな項目これなのかー複雑というかなんというか。


「いっそ出てきたもの、全部やる?色々やれば、どれかで勝てるでしょ。口笛とか」


【口笛ふけるの?】


「ふっ、私の華麗な口捌き、見るといいよ……」

 ちなみに口笛は全く吹けない。見事に風が抜ける音だけが配信に乘る。


【なんでそれで戦えると思ったんだ、この子】

【うそでしょ】

【彼氏さんが勝つ俺の魂を賭けよう】


「みんな!?私のこと応援してよ!!!しかも今、自分の魂ベットしたやついるな、いのちだいじに!」


コメント欄にたくさん草が生えているが、生やしてる場合じゃないんだから。本当にもう。


「今から練習すれば、わんちゃんあるかなって。この前口笛世界大会の動画見たから、イメトレだけはばっちりなのよ。すごいんだよー知ってる?」


 一回、ここまでにしよう。そして出てきたものは一旦全部試そう。そう自分の中で結論づけて、雑談の話題を切り替える。そのあとは口笛世界大会の動画を見た妹が、謎の対抗心を燃やしファ〇リーズの口笛部分をずっと私に披露し続けてきた話で盛り上がった。妹、そういうところある。かわいいね。咲の口笛が一番綺麗な音色だよ!!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて。

 配信終了後、コメント欄を確認し出てきた戦いの項目を洗い出してみよう。


 ・じゃんけん

 ・しりとり

 ・腕相撲

 ・サッカー

 ・野球

 ・指相撲


「……ほんとに小学校の時、休み時間に友人ズがやってたやつばっかじゃん」


 しかし、向こうにはない遊びかもしれない。一度試してみるのは、アリだろう。アリかな?アリであってくれ。残る問題は後1つ。


「どうやってキュスタールに会いに行こうかなぁ」

「お姉ちゃん、タールに会いに行くの?いいね、いいね!やっぱり気に入ってくれた?タールのこと。かっこいいもんねぇ、お姉ちゃんも惚れるのわかるなぁうんうん。でもタールは私のなんだから!」

「咲が私のなんだから!!あんな、ぽっと出の変な男に渡すもんですか!」


 咲が苦笑いでどうどう、なんて言っているけど、渡すもんですか!私はお姉ちゃんだぞ。


「ともかく、あいつにはまずはこの私を超えて行ってもらわないと。その程度のこと、『彼氏』ならできるはずよね?」

「え~~~!お姉ちゃんクール!かっこいい~~!」

「そうでしょう、そうでしょう。咲のお姉ちゃんはかっこいいんだから」


 咲におだてられていい気になる私。正直ちょっとアイツに勝てるかなとか弱気になっていたが、この声援があれば百人力というもの。咲がかっこいって言ってくれるなら、だれよりもかっこいいのは私なのだから!


「で、会いに行く方法知ってる?なんか、帰還装置作ったって言ってなかったっけ。それなら行くこともできるんじゃないのかなって、ほんのり思ってたんだけど」

「う〜ん、どうなんだろ。今まで行けないと思ってたから、そんな話題出してなかったや。ほら、行けないってわかったら寂しいじゃん」


 本当に寂しそうな顔をしている咲。こんな顔をさせたキュスタールには絶対に張り手を喰らわす。今決めた。だから、咲にはちょっとだけ冗談っぽくいってみる。


「そうだね。まぁ?お姉ちゃんとしては!そのまま別れてもらってもいいんだけどね!」

「ふふ、やーだ。じゃあちょっと聞いてみるよ。チャット送っとく」


 笑ってくれた!可愛い!天才!今日の運気、絶対上がった!もう寝るだけの良い夜だけど!


「今日は電話しないの?」

「さすがに毎晩はしないよ~!」


 今日は一緒にお話しよ!と咲が言うので、そのまま咲を抱きかかえ、ベッドに横たわる。今日職場であったこと、食べたお昼ご飯の話、猫が喧嘩している声をまねたり、家の前を通る酔っ払いのおじさんの人生に思いを馳せたり。


 だんだん咲の言葉数が少なくなってゆく。私も、咲の温かい体温で少しづつ瞼が重たくなっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る