第2話 お姉ちゃんは認めません!
2人の馴れ初めはこうだ。大学2年次、咲は海外旅行に行っていた。そしてなんと、その時点で彼氏はいたらしい。あの中澤とかいう男だ。男女混合5人組で行くとは聞いていたが、その時点で彼氏がいるってお姉ちゃん聞いてないよ?
中澤と咲は基本一緒に行動していたが、咲が1人になったタイミングで変な宗教勧誘につかまってしまったらしい。なんとか言葉をこねくりまわして逃げようとしたが、どうすることもできなかったそうだ。中澤ァ……。
助けを求める先もなく、あえなく宗教団体につかまった咲は気づくと異世界にいたらしい。正直海外も異世界みたいなもんだから、初めは気づかなかったとか言っているがさすがに気づくと思うよ、妹よ。
異世界の森をさまよい、建物を見つけ保護してもらった先がキュスタールさんの研究所だったとのこと。いや、命の恩人やないかい。
かみ砕くと太古にあった異世界召喚とはどのような技術なのか、異世界はそもそも本当にあるのか、通信はできるのかなどという内容を研究していたらしい。彼にとって咲は恰好の研究相手だったそうだ。
出会った咲に対して、「話している内容は分からないが、どう見ても過去の文献にあった被異世界召喚者と背格好が同じであり、大変困惑しているらしい。何とか元の世界に返してあげたい」と思ったとのこと。わかる、咲庇護欲掻き立てられるよね。なんたって可愛い私の妹だもん。
そんな彼の思いから、被異世界召喚者を元の世界に戻す装置が生まれ、無事咲は地球に帰ってこれましたとさ。よくやった、キュスタール。さすがにこれは褒めて遣わしたい。私は王様でもなんでもないけど。
異世界で1年程の時間を過ごした咲が戻って来たのは、宗教団体にさらわれる前の時間の地球。何とかキュスタールが話していた謎言語をまねて狂人のフリをして、逃げたそうだ。ちなみにその後、中澤とは別れたらしい。懸命な判断だね。まだ付き合ってたらお姉ちゃんそいつに何したかわかんないよ。
「さ~~~~~~き~~~~~~~!!!!怖い思いしたんだね、お姉ちゃん気づかなくってごめんね、無事に生きててよかったよ~~~~~!」
滝のように涙を流し、咲の頭をこねくりまわす。
「そんなに撫でたら禿げちゃうよ」
「禿げた咲もかわいいよ」
「まだ禿げてないから止めてって言ってるの。あと暑い!引っ付かないで!」
げしげしと足で蹴られ、仕方なく剥がれる。
そんな様子を見ていたキュスタールが、スマホの向こうから話かけてきた。
『お姉サん、本当ニ愉快な方デすね』
「でしょ。可愛いよね、お姉ちゃん」
「いいや、咲の方が100倍可愛いねっ!!キュスタール、貴様の目は節穴か?」
現在は、咲を帰還させた技術を使って、異世界同士でも通信できるアプリケーションを作ったらしい。多彩すぎない?すごいな、キュスタール。でもお前にお姉さんと呼ばれる筋合いはないんだから!!!
「確かにすごいし、恩人だけど!咲は!渡さないんだから!うちの可愛い妹なんだから!」
『ハイ、そう言わレるとは思ッテいました。でモ僕もサキさんのコと、すゴく大事に思っていルンです』
「どれくらい?」
『本当は手元に置いテ、ずっと愛でていタイくらい』
ふむ、良い愛の重さね。でも束縛っぽいのはどうかと思う。だけどこれ危なくないかな。
「え~~~~!そんなこと言って!も〜タールってば!1年くらいは一緒にいたでしょ!」
『あレだけジャ、足りナイよ』
「も~~~~~~!恥ずかしいじゃん!」
いいや!危なくっても、妹がでれっでれで非常にかわいいので、お姉ちゃんとしてはオッケーです!
「まぁ、咲が幸せなのが一番だけど。キュスタールさん。あなた、エルフか何か?」
『オヤ、お姉さンの方は異世界やらエルフやラニ造詣が深いのデ?サキは理解すルまで結構かかっていタのに』
「お姉ちゃんはオタクだからね~。すごいんだよ、何でも知ってるの」
「何でもは知らないよ、知ってることだけ」
……よしっ、いつか人生で言いたかったセリフ言えちゃった。
「こほん。とにかく、エルフなのね?長命種ね?」
『そウ言わレますネ』
「貴方、咲をどうするつもり?」
『ドウ、とは』
「まさか結婚するなんて、言うんじゃないでしょうね」
一瞬沈黙が流れる。
画面の向こうで真剣な面持ちになるキュスタール。そんな彼をにらみつける私。「結婚!?え、そこまで考えてなかったけど恋人ってことはそういう可能性もあるわけで、え~~~!」と真っ赤な顔でクッションに顔をうずめ転げまわる咲。かわいい。動画に収めたいから後でもう一回やってもらおう。
「咲はそういうこと考えてなかったかもしれないけど。結婚して一緒になるまでは良いわよ。でも、その先絶対先に死ぬのは咲よ?耐えられる?ちなみに私は耐えられません。咲にはわたしより長生きしてもらう予定です」
『……そうデすね。一応サキさんを同じヨウな存在に作リ変エル薬を使うコトもできマスが。いざそうなったトキ、彼女と相談しようトハ思ってマスよ』
うっさんくさい笑顔を浮かべるキュスタール。それに気づかずいまだ悶え苦しんでいる咲。
「~~~~はぁ、わかった。咲、良い?よく聞いて」
「いやでもタールってそういうところあるし……、ん?何?」
ごろごろとベッドの上で高速移動していた咲が、ピタリと動きを止めこちらを見上げる。その仕草、100点!花丸あげちゃう!でもね、お姉ちゃん思うの。
「あいつはやめときなさい」
「え~~~!なんで!」
「あいつはやばい!絶対やばい!ああいうのは最後にヒロインの意志を聞かずに色々やらかすタイプだよ。お姉ちゃんヤンデレは大好物だけど、妹がその毒牙にかかろうとしているところを見逃すほど冷徹じゃないからね。つまり!!!」
大きく息を吸って、ご唱和くださいさんはい!
「お姉ちゃんは認めません!」
「え~~~~~~~~~~!!!!」
その後、両親からの壁ドンを受けたが、妹の身の危険にはかえられないから。父母よ、許されよ。許されよ。
……いや、2部屋向こうから聞こえるって相当だな。
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