第84話

「まま」


「?」


ズボンをクイッと引っ張られる感触がして、下を向くと小さな男の子が私を見上げている。


「あ、楓。遅かったね」


「かえでのまま」


足にしがみつく男の子は離れようとしなかった。


私はその子の背の高さまでしゃがんで、ずれた帽子を直してあげる。


「お名前なんですか?」


「たかぎかえでです」


「楓君、よろしくね。私は若葉詩由です。パパの腕にいる赤ちゃんは美憂です。仲良くしてね」


「うん」


小さく頷く楓君の頭を撫でると、少し恥ずかしそうにした。


「若葉さんって言うんですね」


「はい。高木さん、ですね」


「高木理玖と言います。自己紹介が遅くなりました」


「こちらこそです。よろしくお願いします」


お互いにペコペコと頭を下げあっていると、大きなお腹の音が聞こえた。


見れば、高木さん親子二人ともお腹を押さえている。


楓君はケロッとしているが、理玖さんの方は恥ずかしいのか顔がほんのり赤く染まった。

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