第80話

「私は部長が思ってるような人じゃないです」


「仕事も真面目にこなし、いじめられても屈しない。強くて、頼り甲斐のある女性だ」


「……尚更、それは私じゃないです」


綴られていく言葉に、部長は声を詰まらせた。


「"私"を見たらあなたはきっと私を好きにはなりません」


よく飲み会の席で、完璧な女性が好きだとよく言っていた。


実家は隙間風が吹くようなアパート、しかも今はもう引っ越して実家そのものがない。


親は子供を人質に売ろうとして、多額の借金を背負わせ夜逃げ中。


部長の理想とはかけ離れている。


「気持ちは嬉しいです。ありがとうございました。ごめんなさい」


私は椅子に置いていたカバンを持とうと手を伸ばすと、手首をガシッと掴まれた。


「終わった?」


「え?うん…終わった、のかな?」


「じゃあ帰ろっか」


引っ張られるように腕を引かれ、少しもたつきながら着いて行った。

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