第75話

「武中って、俺の名前知ってたんだ。いつも部長としか呼ばれなかったから」


「もちろんです。職場の方々のお名前は全て存じ上げていました」


息を切らして、部長は笑った。


それを見てまた私を睨み返す三人に、私は向き直る。


「林才加さん、古家美咲さん、安達美紀子さん。在籍当時はお世話になりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「ただ、私は今の仕事に誇りを持っています。隣にいる美梨亜ちゃんも店主の明日香さんもとっても良い人なんです。お弁当、ぜひ食べてみて下さいね」


部長もいる手前、下手には動けず三人はさっさといなくなってしまった。


私は静かに溜め息を吐いて隣を見ると、目に薄ら涙を浮かべる美梨亜ちゃんの姿を見て慌ててハンカチを渡した。


私も息を吐くように嘘をつく。


「若葉君」


「はい」


「それが終わったら少し時間をくれないか」

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