第68話

「秋」


名前を呼ばれると、胸が高鳴るのはなぜだろうか。


「私が作ったお弁当、これから食べてくれませんか?」


彼女のとんでもない提案に、俺は瞬きを繰り返した。


「中学の時まで給食でしたけど、高校からはお弁当じゃないですか。料理の練習も兼ねて、味見役を引き受けて下さい!」


「いいけど…」


俺に食べた感想を求められても到底無理な話だ。


先述した通り、人の手作りのものなんて食べた事ない。


両親ですら、料理とは無縁な人だ。


ヤクザの世界に生きる俺達には、余裕も楽しみも無いのだから。


「本当ですか?実は何度か作ってみたんですけど、私のお弁当には彩が無いと母に言われちゃって」


詩由は最初にいた窓へ戻って、外へ手を伸ばして花びらを摘んだ。


その姿すらも目に焼き付いて離れない。


「見て下さい、秋!」

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