第64話

タバコを燻らせながら、手の平に落ちてきた花びらを摘んで日にかざす。


さっきの教師の忠告はとうに頭から抜け落ちていた。


質感の滑らかな桜は、風に吹かれてまたどこかへ飛んでいく。


「無理しないで、戻って来れそうなら式に戻ってきてね」


「はい、ありがとうございます」


そんなことをしばらく続けていたら、扉の開く音と共に誰かが入ってきた。


「はぁ…つまんない」


ベッドのある場所の窓にいるから、それに隠れてその姿は見えない。


声を聞く限り女なのは分かった。


窓際まで歩いてくると、彼女はすぐに俺に気が付いた。


「あ」


やはり教師の言うことはきちんと聞いておくべきなんだろう。


バレてしまった。


俺の指に挟まれたタバコを見つめている。


バレたところで痛くも痒くもないが、ここは何気に進学校、さっきの教師以外に知られると後々面倒だ。

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